第11話
自室に戻り制服を脱ぐ。うわあ、蹴られた脇腹が紫になってるよ、これはちょっと…申し訳ないがアルン様用の湿布薬を拝借して貼っておこう。保健室行けば補充できるしね。本当はこれ先生に見てもらった方がいいんだろうけどエルザ先生に見られたらダドくんにバレるし。皆に心配かけたくない。
幸い叩かれた頬は赤くなってるが腫れたりしてない、最悪ファンデーションで誤魔化すか。
制服も土汚れが思ったより酷い、洗濯に出そう。寮では専用のカバンに洗濯物を入れて部屋の前に出して置けば寮員が洗濯してくれる。天気が悪くなければ翌日には届けてくれる仕組みだ。
「ふう」
べッドで軽く横になる。脇腹に貼った湿布薬が痛みを和らげる。明日どうするか。色々考えてると心地よい睡魔が襲ってくる。知らないうちにまどろみに身を委ねてしまった…
窓の外には白樫があり、鳥が来ては目覚まし代わりに鳴いている。眩しい光がカーテンから漏れ瞼を照らす。
「!!」
いつの間にか朝だ!軽く横になるつもりがそのまま寝てしまっていた?時計を見るといつもより遅い時間だ、やばっ遅れちゃう。
昨日夕食も取らずそのまま寝てしまったが、朝はシャワーを浴びておきたい、朝食も食べれそうにないな?予備の制服をクローゼットから取り出して急いで支度をする。脇腹の痛みは大分引いたし顔も腫れてない、大丈夫だ。
「お、ギリギリ!珍しいねマリアにしては」
教室に着くとすでにコーデリアとアルン様が雑談してる。挨拶を交わし席に着くと授業だ、危な、間に合った!しかしお腹ぺこぺこだ…昼休みが待ち遠しい。
「さて、お昼だ!何食べよう?」
相変わらずのコーデリア。アルン様も笑ってるじゃない。でも今日ばかりは私も早くお昼を食べたい。
「マリア、隣クラスの伯爵令嬢が呼んでるぞ」
不意に、クラスメイトから声をかけられる。え、誰?
「あっ」
昨日の四令嬢の一人…例の控えめな四人目の子!
そうきたか、向こうから来てくれたか。籠絡する手間が省ける。
「ごめん、ちょっと行ってくる、先に食べてて」
アルン様も見知った顔だ、心配してる素振りをみせるので大丈夫と笑顔で手を振る。
なるべく人目の無い所へ、という事で校舎裏…昨日連れてかれた所へまた来る。…待ち伏せとかじゃないよな?
「昨日は…ごめんね?」
レイラ様と一緒にいた控えめな令嬢…エマ・シルバー伯爵令嬢。侍女科では同じクラスだ。黒髪のショートボブの可愛い、いかにも控えめで見るからに大人しい感じがする。侍女クラスではあまり話した事はない。
「大丈夫です、気にしてません。私もワザと怒らせましたから」
「…やっぱりそうですよね」
「もしかして、王太子殿下の事でしょうか?」
「…はい」
エマ嬢が言うにはやはり裏で殿下が糸を引いてるらしい。婚約破棄の時、レイラ様が偽りの証言をし、アルン様を断罪したのも殿下に言われてやった事だとか。その後、事あるごとにアルン様を学園から追い出す為に虐めろとか孤立させろ、まで言われたと。
最初は王太子殿下だし、リーリ嬢との仲を応援して欲しい、そういった純粋な気持ちに打たれて協力していたのが婚約破棄後もアルン様に追い討ちをかけるのを疑問に思いながらもレイラ様と一緒に嫌がらせをしていたと。
日頃から疑問に思ってた所に私が殿下が信用出来るのか?みたいに言ったから完全に疑心暗鬼になったのね。
「それに…私はレイラ様とは違い、アルンシーダ様もお慕いしております。正直言うと…マリアさん達が仲良くされてるの、羨ましかったんです…」
「でも、レイラ様もお慕いしてるのですね?」
無言で頷く。レイラ様とエマ様は幼馴染、私とダドくんみたいな関係だと言う。
「あの…マリアさんは何かご存知なのですか?殿下が何故あれ程アルンシーダ様をお嫌いになられてるのか」
「正直、わかりかねます。ただ、余りにも不自然な点が多いとは思っております」
そう、不自然というか矛盾がある。アルン様を学園から追い出す為に虐める?アルン様が学園にいるのはリーリ嬢が引き止めたからではないか。そしてそれを認めたのは殿下だ。この事は、殿下のご友人達とリーリ嬢、そしてアルン様御本人しか知らない。だからこそ、皆がアルン様を腫れ物の様に今まで扱ってきたのだから。
殿下とリーリ嬢の思惑は実は違う?だとしたらアルン様を学園に残したリーリ嬢は嫌がらせの為ではなく別の思惑があるのかしら?これは思ったより複雑なのかも知れない。
とりあえずエマ様もレイラ様に知られたら困るだろうから今後なるべく目立たない様にお互いに情報を交換しましょうとこっそり別れ侍女科の教室へ向かった。
侍女科の教室にはすでにコーデリアがいる。とは言えエマ様も同じクラスだからコーデリアも何があったかは大っぴらに聞いてはこない。後で教えてね?的なウインクを貰う。
今後どうするか。まだ情報が少な過ぎる。エマ様を通じて殿下の情報を集めてみるか。
というかもうダメ、昼も食べ損ねて今日はホントもう無理!頭回らない!お腹すいた!!!
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