第10話

 午後の授業が終わるとコーデリアは部活、アルン様は今日は政治外交科の課題があるらしくそのまま自室に帰られた。ちゃんと課題はやってるの、アルン様らしいな。今日こそ私も課題のプリント終わらせないと。幸いコーデリアが言ってた公爵家の評価は私もアルン様に明日お願いした。私の部屋に泊まった時のだと色々バレたら困るしね…念のため。


 自室に戻る前に課題しながら食べるオヤツが欲しいなと食堂に向かうと、どっかで見た令嬢達が前から歩いてくる。あ、これはヤバいヤツだ。


「ちょっといいかしら?マリアさん」


 先日女子寮の階段でアルン様に絡んでた四人組だ。どうしたものか。いや、これはむしろいい機会かも知れない。どうしてアルン様を虐めるか、探りを入れて見るチャンス…だといいな?


 人気のない女子寮裏に連れてかれる。これは流石に怖いぞ?まあ、落ち着け私!別に殺される訳じゃない、落ち着け!


「貴女、最近アルンシーダ様と親しい様ですが一体どう言うおつもり?」


 赤髪のロングヘアーをハーフアップさせたリーダー格らしい令嬢が口火を切る。確か、レイラ様。侯爵令嬢だ。


「たかが子爵令嬢が調子に乗ってるんじゃなくて?」

「何とか言いなさいよ」


 後から続くこの二人は伯爵令嬢ね。さて、この場合無難に乗り切るには平謝りが鉄板だけど。多少嫌な目に遭ってもそれで終われる。しかしここは少し探りを入れたい。勝負所だ。


「大変申し訳ございません。ですがアルン様がご友人もいらっしゃらなくお困りの様子でしたので」


 明らかに嫌味を含んだ言い方でニコリと笑う。そう、この四人は元々はアルン様のご友人だった人達だ。


「いい度胸ねっ!」


 バシッとレイラ様からのビンタを食らい倒れ込む。痛いがまあ、ひょっとしたらと覚悟はしてたしワザと避けなかったから驚きはしないが思ったより痛い。中々攻撃的なご令嬢だな?レイラ様。でもここで怒るって事はアルン様を裏切った自覚はある訳ね。


「ずいぶんと生意気言うわね」


 顔を赤くして息巻く。よしここでもう一押し。

「そう言えばレイラ様も『元』ご友人でしたね、今からでも遅くありません、またアルン様のお友達に戻られては?」


 倒れたままの所をガシッ!と脇腹を蹴られる。挑発したとは言え、ご令嬢に蹴られるとは流石に思ってなかった、これは痛いッ!!

 周りの令嬢がレイラを止める。まあ、流石に暴力沙汰はまずいと思ったか。それにしても侯爵令嬢と思えないくらい攻撃的な人だな?どっかの王子といい勝負だ。


「げほっ…アルン様はお優しい方です、皆様もまた迎え入れてくれますよ?」

「何を言ってるのかしら?あんな王太子殿下に婚約破棄された人に着いてたら後々王家に目をつけられるじゃない!」


 ふむふむ、普通に王家を恐れてる訳ね?でもそれならただ離れるだけでいい。先日みたいにわざわざ嫌味を言いに来る必要はない。

 それとも、元友人として未だ学園にいるアルン様に罪の意識で苛立ちを感じているのか?陛下や宰相様が帝国に赴いているのはアルン様に聞くまで私も知らなかったし、何故アルン様がまだ学園にいるのか皆知らないもんね。ちょっと揺さぶるか。


「アルン様は悲しんでいらしてましたよ?ご友人方と疎遠になってしまったと…」


 ウソ、というより適当な出まかせだ。いや、多分アルン様なら本当にそう思ってる気がする。


「何を言ってるのかしら?公爵家で殿下の婚約者だったから仲良くしてただけよ!破棄された今一緒にいる必要ないの!」


 清々しいまでに上辺だけだな!でもこれで元友人として負い目を感じてた線はないな。よし、もう一つ。


「でも殿下も婚約者を平気で蔑ろにし、すぐに別の女性に乗り換える様な方ですよ?殿下に取り入ってもすぐ切り捨てられそうで怖くないですか?」


 我ながらなんて不敬な発言か。本人に聞かれたら処罰されてもおかしくない。


「そ、そんな訳ないじゃない!殿下は私達を信用して下さってるのよ!バカじゃないの!」


 あら?思ったより動揺してるな。『殿下に信用されてる』、つまり殿下と何かしら繋がりがある可能性あるな?レイラ様の威勢とは裏腹に後ろの三人は顔色変わったし。


「と、とにかく!アルンシーダ様に近寄るのは止めときなさいね!次はもっと酷い目に合わせるわよ!」


 吐き捨てるとそのまま校舎に向かって去って行っく。なるほど、アルン様に近寄らせない為の警告で呼ばれたのね。つまり、アルン様を孤立させたかったのかしら?

 それにしても思い切りやってくれたなあ。立ち上がり、制服に付いた土を落とす。ビンタされた頬がヒリヒリする。女性の力だから大した事ないけど蹴られた脇腹も痛い。でも身体を張ったぶん収穫もあった。

 まだ推測の段階だが、どうやら令嬢四人組は殿下と繋がってるくさい、殿下の命でアルン様を孤立させたいみたい。もう一つ、一番の収穫は四人目の令嬢だ。レイラ様と伯爵令嬢二人はやたらと責めて来たが、もう一人、四人目の令嬢は後ろで申し訳なさそうに見てるだけ。そう言えば先日のアルン様に嫌味を言ってた時も彼女だけ控えめで何も言ってなかった。確か、同じ侍女科の伯爵令嬢だったはず、もしかしたら籠絡出来るかも知れない。ちょっと調べてみるか。


 それにしても…私のところに来てくれて良かった。コーデリアの方じゃなくて。



 

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