第7話
保健室は西校舎だ。中庭を西に抜けてすぐなので近い。ちなみに医療科の授業も西校舎である。侍女科は東校舎だ。
当たり前だが王侯貴族の学校だから国の最高レベルの医師もいるし、壇上で教鞭を振るっている。
保健室に入ると受付の看護師に声をかける。
「あら、すぐに先生を呼んできますね」
そう言って椅子に座らさせられ奥へと消えていく。医師は男性も女性もいる。貴族の女性の肌に医師とはいえ触るのは緊急時以外は良く思われないし、未婚の女性は恥ずかしい。女生徒だから女医さんを呼びに行ったのだろう。と、間をおかず黒髪の美しいロングヘアの白衣を着た女性がやってくる。すごいセクシーな美人さんだ。
「どれどれ。あら、これは痛そう。よく我慢しましたね、大丈夫、骨は折れてないわ。」
一時アルンシーダ様の腕を優しく調べたかと思うとそう言いながら湿布薬を当て包帯を巻いていく。
「誰か力の強い男子に掴まれて捻ったのね、女子の華奢な腕を思いっきり掴むなんて、酷いことするわ」
誰にやられたのか、は聞いてこない。プライベートな問題はこちらが言わないと聞かないというのはこの学校の教職員の暗黙ルールらしい。今問題の公爵令嬢である事も特に触れてこない。大人の対応だ。
「折れてはないけど骨と筋肉繊維が痛んでるから安静に、重い物持ったりしないようにね」
痛みはあるだろうけど跡が残るような事はないと聞いて二人で安堵する。良かった。
ささっと予備の包帯と湿布薬も用意し小袋に纏めてサッと私に渡してくる。
「マリアちゃん、お部屋は侍女さんが湿布を替えてくれるでしょうけど、休み時間とかに替えてあげてくれる?」
あ、なるほど、わかりましたと受け取る。アルンシーダ様の侍女にも侍女室に届けてくれるらしい。
ん?マリアちゃん?私名乗ってないけど何で知ってるの?初対面だと思ったけど違った?
ちょっと気になったけど別の患者さんが入ったらしい、二人でお礼を言い、保健室を後にした。
「ごめんなさい、また迷惑かけて…」
中庭に出たとこでアルンシーダ様が暗い顔して申し訳なさそうに謝る。
「それよりお昼まだですよね?実は私も食べ損ねたので一緒に食べませんか?」
あえて謝罪には触れないで思いっきり笑顔でランチに誘う。
一瞬キョトンと目を見開いて驚いたが彼女も思わず笑顔になる。
「はい!」
一時はどうなるかと思ったし、予定とはちょっと、いやかなり違ったけど宣言通りお昼に誘えたのでこれでヨシ!
学園を出て街のお店に誘うのも考えたけど、公爵令嬢を庶民のお店に誘うのはどうよ?って思い無難に学食にすることに。
学園食堂は基本的にどんな時間でも開いている。生徒だけでなく教職員も利用するからだ。生徒は授業中食べに来る事はあまりないが、仕事で時間が取れなかった職員が不規則な時間に食べに来る時が多々ある。もっとも、今の私達の様に事情があって昼以外に来る生徒もたまにいるし、授業をサボって来る生徒もいる。私達みたいに先生に報告してない場合は食堂の職員から教員に連絡が行き成績に響くけど。
「コーデリアには悪いけど、お腹ぺこぺこだよ〜、早く食べましょう!」
そう、昼食を取らずにアルンシーダ様を探しに行ったから先生に連絡を頼んだコーデリアもお腹が空いてるはず。帰りに何か持って行ってあげるか。
「わ、私も。安心したらお腹空いちゃった」
あ、いい…自然なアルンシーダ様、すごくいい!可愛い!同じクラスだし前から綺麗な人だと憧れてたけど以前は王太子殿下の婚約者で近寄りがたい雰囲気があったのと、(元)ご友人が沢山周りに居て話しかけにくかったのよね。それでも何度かはお話させて頂いた事あるけど、すごく上品で柔和なイメージがある。さっきの殿下の事色々聞きたかったけど、今はそんな事よりも少しでも気を紛らわせてもらうのが先だ。あと昼食が先だ。
まだ利き腕が痛そうだからナイフやフォークを使わず摘んで食べれるサンドイッチを頼む。
「あ、コレこの前マリアさんの所で頂いたトマトとレタスのサンドイッチね?あれ、とても美味しかったわ!」
「ふふふ、何とこのトマト、うちのトマトなのです」
「!?」
実家は葡萄の名産地なのは有名だから恐らくアルンシーダ様もご存知だろう、しかし実はあまり知られてないがトマトや胡瓜など野菜もうちの名産なのだ!…レタスは違うけど。学園食堂にも卸してる。多分4割くらいはうちの野菜じゃないかな?美味しいって言われると純粋に嬉しい。
昼食を食べながら実家で取れる野菜やら果物やらの他愛ない話をする。カモミールティーを頂きながら一息つく。
「あのね…さっき中庭でマリアさん達を見た時、すごくほっとしたの」
「アルンシーダ様…」
「それでね…今、私本当に今後どうなるか全くわからないのだけれど」
そこで息を呑む。震える手をそっと握り込むのがみえる。
「ご、ご迷惑でなければ、私とお友達になってもらえませんか?」
ああ、そうか、今朝私と同じで寝不足なんだろなあって思ったけど、同じ事考えてたんだ。
「もちろん、喜んで!」
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