第5話
「さあ昼ごはんだ!」
昼休憩の鐘がなり、生徒たちは一斉に食堂へと向かう。チラッとアルンシーダ様を見るとまだ席に座ったままだ。気遣いは嬉しかったけど、やっぱり気になる。どうしよかな。ランチに誘ってみよかな?
「マリア、お昼一緒に食べようよ!」
…隣の席のコーデリアに先に声をかけられてしまった。まあ、いいか。私も迷ってたし。
コーデリアは同じ侍女科の友達だ。栗毛のミディアムヘアを後ろでポニーにし、パチリとしたダークブラウンの瞳、何となく小動物っぽくて愛らしい子だ。彼女も子爵令嬢で席も隣だから仲良くなって一緒にいる事が多い。
二人で学園食堂に行くと昼休憩に入ったばかりですごい人だ。生徒だけでなく教職員も利用するのでかなり混雑している。
「どうする?街に行ってみる?」
コーデリアが提案してきた。食堂はエントランスほど広く、料理人も多いから多分待ったところでそこまで待たされる事はないだろうが…。
そう、寮生活とは言え外出に規制はない。学園は王都にあるのですぐに城下街に出られるのだ。勿論、門限はあるのだけれど。
どうしよかな?って一瞬迷っていると、食堂の順番待ちの列に割り込む王太子殿下とそのご友人達が目に入る。うっわ〜、ウソ、割り込むんだ…いや、そういう事出来ちゃう身分だろうけど明らかに権力濫用じゃない?今まで気にした事なくて意識してなかったけど、もしかして前からもやってた?周りの人もまたかって感じだ。これはさすがにドン引きだわ…やっぱ王太子一派=酷い人、アルンシーダ様=良い人の図式が頭の中で成り立ってしまう。
「…街でランチにしよっか」
コーデリアも殿下の横暴を見て、食堂で一緒に食べる気は完全に失せたようだ。
エントランスを南に抜け、二人で街に出て何処に行こうかな?何食べよう?って悩んでたらどっかで見たことある長身の男子がいた。ダドくんだ。
「マリア、コーデリアも。昼飯か?」
「ダドくん。そうそう、たまには街で食べるのもいいかなって」
「ランダード様、オススメのお店とかありますか?」
私達が幼馴染みなのは知ってるし、ダドくんもダドでいいよって言ってるのにランダードを様付けで呼ぶのはコーデリアだ。まあ本来ならダドくんは上位貴族だしな。でもそれなりに親しい友人として仲良くはしてるので三人で一緒に食べに行く事にする。
ダドくんのオススメのお店でランチを食べ終わり食後のティーを頂く。なるほどさすがダドくんのオススメ店。かなり美味しい。特にパスタ。お値段も貴族向けかと思えば割と良心的。それでも庶民にはお高めだろうけど。これは店の場所と名前をちょっと心の中にメモっておこう、また来たい。
帰りの道でさっきの学食での殿下の事をダドくんに聞いてみる。
「あー…うん、前からそういうトコあるな、王太子殿下」
やっぱりか、と内心呆れながらコーデリアと顔を見合わす。
「婚約破棄の時も結構横暴でしたよね…アルンシーダ様お可哀想…」
小声でコーデリアが呟く。あー、やっぱり皆そう思ってたのね。私だけじゃなかった。もしかしたら他の皆も全員ではないだろうけど同じ様に同情的な声があるかも知れない。
そう言えば、アルンシーダ様はどうしたんだろうか。今日はもう午後の授業もないし自室に帰られたかな?昼食なら自室からオーダーも出来るし。
ダドくん達と別れて女子寮へ向かう。コーデリアはこの後部活で音楽室だ。ヴァイオリンを嗜んでるらしい。私は部活はやってないんだよね〜。運動もイマイチ、音楽も出来ないからそのまま帰宅。殿下のせいでちょっとモヤモヤしたけど、美味しいパスタ屋さんを知れてとりあえず気持ちは落ち着いた、課題のプリントを終わらせよう。
エントランスから女子寮への廊下を歩いてると階段を上がろうとするアルンシーダ様が令嬢数人と一緒にいる。ん?トラブルかしら?
「あらあら、王太子殿下に婚約破棄されたアルンシーダ様、まだ学校にいらっしゃるんですね?」
「さすがアルンシーダ様ですわ、私には真似できません」
…アレはアルンシーダ様のご友人達、いや、元ご友人というべきか。え、何、いじめ?
侯爵、伯爵令嬢が四人で階段を上がろうとしたアルンシーダ様に聞こえるように陰湿な嫌味を言っている。当の本人は俯き、ただただ耐えているだけ。令嬢達は嫌味を言うだけ言うとひとしきり高らかに笑いそのまま去っていった。何なの?わざわざ嫌味言いに来たの?ヒマなの?というかアルンシーダ様、公爵家なんだけど?ちょっと不敬なんじゃない?
声をかけるべきかどうか…すごく悩んでたらアルンシーダ様は暗い顔のままこちらに気づかずそのまま階段を上がって行く。
「アルンシーダ様っ!」
…思わず呼び止めてしまった。
「あっ明日!一緒に昼ごはん食べましょう!」
さすがにアルンシーダ様もぽかんと面食らっている。そりゃそうだ。私も何言ってるんだ?誘うにしても食べに行きませんか?でなく何で食べましょうなんだ。私の方もだいぶ不敬だ。いや、でもなんか…そのまま行かせてはダメな気がした。
「…は、はい」
少し戸惑いを見せながらも短く一言、笑顔で言われた。そしてそのまま俯いて階段を上がって行った。
私は…昼ごはんに誘った事と彼女の後ろ姿が頭から離れずしばらく放心状態で廊下に立ち尽くしてしまった…
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