第4話
「これで良かったのかなあ?」
アルンシーダ様を送り出した後、自問自答をすれど答えは出ない。やってしまった事は仕方ない、気持を切り替えていこう。
少し早めに教室へ向かう。提出はまだ先だが課題のプリントが気になる。
寮は貴族の位と学年で部屋が分かれている。四階建ての一番上が公爵やら王族といった上位貴族の寮で後は学年に応じて三階は3年、二階は2年生といった感じだ。ただ上位貴族でも望めば学年通りの階に住める。広さや内装はどの階もほぼ同じだから階段が面倒という理由で一階に部屋を持つ上位貴族もいる。
寮から教室まで建物は繋がっていて、西が男子寮で東が女子寮。ちょっと大きめのダンスホールくらいの広さの中央エントランスで校舎と繋がっているので待ち合わせする者、雑談する者様々だ。
「お、マリアじゃん。早いな、おはよー」
丁度エントランスに入った所で不意に声をかけられて足が止まる。西側の男子寮入り口方向に目をやると私より数十cm高い身長で寝癖のついた黒髪、制服の上からでも筋肉質なのが判る体躯、女子受けしそうな端正な顔つき。嫌いじゃないけどちょっと苦手な奴だ。
「ダドくん、おはよー。寝癖ついてるぞ?」
「えっ!?マジ?」
ランダード・グランデ。グランデ辺境伯の次男。何故、辺境伯の子息なのに馴れ馴れしくダド呼びかと言うと幼馴染みだ。身分こそダドの方が上だが母親が従姉妹同士なのと領も隣で近い。また、私の実家は葡萄が名産で酒豪で知られるグランデ伯が私が幼い頃からワイン目当てでダドくんを連れて遊びに来ていた。
歳も同じだし幼い頃はよく一緒に遊んだものだ。伯爵も大らかな方だったし、身分差があっても距離を取るような事は無かったからホント家族ぐるみの付き合いって感じ。ちょっと苦手、なのはお互いの事知り過ぎてるからかなあ。
「マリアがこんな時間に登校は珍しいな」
寝癖を気にし、髪の毛を押さえながらやって来る。侍従の言う事を聞かず飛び出すダドが目に浮かぶ。
「昨日教室に課題プリント忘れてきたのが気になって。ダドくんは…?」
「オレは朝練。毎日この時間だぜ?」
そうだった、グランデ家は武門の家系で代々将軍を務めてる。長男が将軍を継ぐんだろうけど当然ダドも騎士科だ、剣やら身体の鍛錬は欠かせない。授業外でも当然鍛えてる。昔は可愛い子だったのにすっかり筋肉男になってしまって…筋肉ダドとか呼びたいけど爽やかだし着痩せする奴だからスタイル抜群だ、呼んだら逆に喜ぶわ。
まあ一応侍女科の人間ですからね、カバンから櫛とヘアオイルを取り出すとダドくんをベンチに座らせちょいちょいっと寝癖を直してあげる。これでヨシ!
クラスが違うし時間も普段は合わないから久々に会ったので他愛のない近況を話しながら一緒に教室に向かう。
「どうした?何か悩みでもあるのか?」
やばい、顔に出てた?昨日の事で迷いがあるのが。
ダドくんならいいかな?なんやかんやで信用できるし口も固い。昨日の出来事を話してみよかな?男子の意見も聞いてみたい。
「そんな事があったのか。確かに難しいなあ…」
「ねー。アルンシーダ様可哀想…」
要点だけかいつまんで昨日の出来事を話す。まあでもダドくんは複雑だろうな〜。兄であるクリュート様は殿下と親しい。アルンシーダ様が婚約破棄された時も一緒にいたもんなあ。パーティの時、婚約破棄とアルンシーダ様の断罪の後は少人数でやり取りし、別室に入って行ったからその後どうなったかは皆知らないけど、別室に入った面子にクリュート様もいたし。
「まあ、気には留めとく。現状オレも何か出来ることはないからな。マリアも無理すんなよ」
「うん、ありがと」
実際まだ何か起こった訳ではない。けど、事情を知ってる人がいるのは頼もしい。アレ?もしかしてアルンシーダ様もあの時こんな気持ちだったのかな?勿論、ぜんぜん程度が違うけど。
ダドくんと別れて教室に向かう。寝癖を直したり話が長くなってしまい早く部屋を出た割にはいつもよりちょっと早い程度になってしまった。これは課題をやる時間ないかなあ。今日は選択科目も授業がなく4時限迄で早く終わる日だ、帰ったらやればいいか。
すでに教室には半数以上の生徒がいる。クラスメイトにおはようと挨拶を交わし自分の席へ。と、そこにアルンシーダ様が教室に入って来た。
一瞬だが、教室が静まる。今日も来たんだってヒソヒソ声が陰から聞こえてくる。実際昨日までは私も思ってたし。
入口にいるアルンシーダ様と一瞬目が合う。そのまま私の横を通り自分の席に向かう。声をかけられるかな?って思ったが目配せだけで無言で窓際の席に着く。彼女なりに気を使ってくれてるんだろう、ここで私が声をかけたら台無しだ。私も知らないフリをして机に向き合う。極力、巻き込まないようにと気遣ってくれてるのかも知れない。
やっぱり良い人なんだよね、彼女。
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