第2話 意地。

キャラクター





葉月照也はづき てるや


高校一年生


文芸部副部長・ヘタレ





早乙女えむ(さおとめ えむ)


高校一年生


文芸部副部長・ヘタレ


愛犬:ヒデヨシ(オス・十歳)





岩田吾郎いわた ごろう


高校三年生


文芸部部長・筋肉ゴリラ





万年冬美まんねん ふゆみ


現代文担当教師(二十五歳)・文芸部顧問





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





吾郎「じゃあ、文集の内容は『文芸部の活動で得たもの』でいいんだな?」





照也「いいんじゃないですか?」本から目を上げないまま





吾郎「さ、早乙女さんも……これでいいかな?」





えむ「いいんじゃないですか、別に」スマホを弄りながら





吾郎「べ、別にって……これは学校祭で出す大事な――」





えむ「こんなの、どうせ誰も読まないですよ。何書いても結局同じだと思います」





吾郎「そんなこと言うなよ! 少しくらいはちゃんと読んでもらえるはずだ! ……た、たぶんだけど……」声を窄めて。しかし、ここは部長らしくと顔を上げ「で、でも、とりあえずテーマが決まったわけだし、早速今日から――って、ど、どうしたんだ、二人とも?」





照也「…………」正面のえむをじっと睨む





えむ「…………」正面の照也をじっと睨む





照也「なんだよ」





えむ「そっちこそ何よ」





照也「初めに俺を見てきたのはお前だろ」





えむ「何言ってるの? アンタが私を見てたんじゃない」





吾郎「お、おい、お前達。どうしたんだ、また――」





照也「筋肉ゴリラ先輩は黙っててください」





吾郎「いや、俺はそんな名前じゃ……。っていうか、文集の作業――」





えむ「もしかして、アンタ……」ニヤリと笑って「私の顔に見惚れてたの?」





照也「は、はぁ? なんだよ、それ? それを言うなら、初めに俺を見てたお前の方こそそうなんじゃないのか?」





えむ「な、なんで私がアンタの顔に見惚れなきゃいけないのよ!? っていうか、初めに私を見てたのはアンタ――」





吾郎「ま、まあ、落ち着け、二人とも。お茶――はいらないなら、お菓子があるぞ? 実は、今日みんなで食べようと思って色々買って――」





照也「いえ、先輩は気を遣わなくて結構です。これは俺達の問題ですから」えむから目を逸らさずに「お前、先輩にこんな気を遣わせて申し訳ないとは思わないのか。俺は思う。だから、謝ってやる。確かに、最初に見てたのはお前じゃなくて俺だ」





えむ「だから、初めからそう言ってるじゃない」





照也「いや、でも違う」





えむ「違うって、何がよ」





照也「俺は別に何もかも認めたわけじゃない」





えむ「……はい?」





照也「俺はただ大人として、こんなみっともない言い争いを終わらせるために自分が悪かったと認めてやってるんだ」





えむ「な、何よ、それ? それじゃ、まるで私が――」





照也「はいはい、悪かった。俺が悪かった。な? だから、これで終わり。いや、でもまあお前が、自分がこっちを見てたことを認めて謝るなら話は別だが……」





えむ「な……? だ、だから、私は見てないって言って――」





照也「なら、やっぱりこれで終わりだ。俺が悪かったって、そういうことにしといてやるよここは。大人として」





えむ「くっ……!」





照也「…………」





えむ「…………」





照也「……なんだよ?」





えむ「アンタこそ何よ」





照也「もう終わったんだ。なのに、なんでこっち見るんだよ」





えむ「それはこっちのセリフよ。終わったって、自分が悪かったって言うなら、アンタから目を逸らしなさいよ」





照也「そ、それとこれとは話が別だ。さっきは俺がお前に譲ってやったんだ。だから、今度はお前が引き退がったらどうだ」





えむ「いやよ。それじゃ、まるで私がアンタに負けたみたいじゃない」





照也「なんだよ、そのくだらない意地は……」





えむ「意地を張ってるのはアンタでしょ」





照也「お前だ」





えむ「アンタ」





照也「お前」





吾郎「ま、待て」チョコレートの入った大きな袋をパーティ開けしながら「な、なあ、お前達って……仲がいいんだよな? 仲が悪いんじゃなくて、仲がよすぎるから、こんな――」





照也・えむ「「仲よくなんてありません!」」二人とも吾郎を睨んで怒鳴り、それからハッと互いへ視線を戻す。





照也「……解った。なら、勝負だ。お前が負けを認めるまで、つき合ってやろうじゃねえか」





えむ「フッ……望むところよ。じゃあ、今日は私がアンタの家にご飯を食べに行くけど……いいわよね?」鞄を持って席を立つ





照也「じゃないと勝負ができないだろ?」同じく席を立つ。そして、えむと睨み合ったまま部室を出て行く。「その生意気なツラがいつまで保つか、楽しみだな」





えむ「アンタこそ、寝顔を撮られないようにせいぜい頑張ることね」





吾郎「お、おい、お前達! 事故には気をつけろよ! ちゃんと信号は見るんだぞーっ!」叫ぶが、返事はない。ひとり残された夕暮れの部室でチョコレートの袋を開け、口に入れて呟く。「先輩……俺、部長に向いてないのかな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

逢魔が時の文芸部。 茅原達也 @CHIHARAnarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ