25日目 Super Dokey Kroncong

 僕は今日も外に出る。

 夏休みは間もなく終わるけれど、日差しはとても元気で、僕からしたらもう少しくらい弱まってくれてもいいのに、と思える。

 多分、僕だけではなくて、みんなもそうに違いない。

 近くの公園には、僕の嫌いな子がいて、いつも色々な子に意地悪をしているからできる限り近づかないようにしている。

 今日の僕は少し頭を使って、公園の裏側にある廃マンションの道を通った。

 もう間もなくマンション自体の取り壊しがされるために、誰も中に入ることはできないのだけど、僕は勇気を出して侵入する。

 何故なら。

 マンションの敷地内には、そのマンションの子たちだけが遊ぶことができた小さい公園みたいなものがあるからだ。あそこの遊具は確かに、小さいし、ちょっと格好悪い。

 でも、いじめられたり、バカにされるのを我慢しながら遊ぶよりはよっぽどましだと思う。

 僕は土に埋もれ始めている石畳の道を歩き、フェンスを二回くぐってマンションの影に隠れるようにして、向かった。

 何故、誰かに見つかると思ったのかは分からない。でも、そうやって自分の中で設定を作った方が何となく面白いような気がしたのだ。そして、実際、本当に面白かった。

 だから変なテンションでその公園の中に入って。

 変な女の子に会った。

「あたしに、何か用なのか。」

 やたらに口の悪い女の子だった。

「こんなところで、何をしてるんですか。」

「あっちの公園だと、静かに絵本が読めないからこっちに来たの。」

「あぁ、なるほど。」

「なんで、あんたは、そうやって丁寧な言葉で喋るの。子供のくせに変なの。」

 君も子供じゃないか。とは口が割けても言えなかった。

 距離はあるけれど、変な口の利き方をしたら殴られると咄嗟に思ったからだ。

「ねぇ、あんたってさぁ、星新一って知ってるの。」

「うん。読んだことあるよ。」

「おーい、でてこーい。っていう題名の話、読んだことある。」

「あるよ。星新一のショートショートだよね。穴に色々投げ込んでいく話だ。」

「なんで、敬語崩してるわけ。」

「す、すいません。」

「でね、その。おーい、でてこーい。ごっこしようよ。」

「えぇと、別にいいけど。その、それは、ごっこになるのかな。」

「なるに決まってるでしょ。バカなんじゃないの。あたしがまずは穴にものを投げ込む役、あんたは穴の役だからね。」

「穴の役より、僕が掘って実際に穴を作った方がいいと思うんだけど。」

「じゃあ、あんたが実際に穴を掘ったとして、その穴はなんでも吸い込む穴になれるの。」

「だって。ごっこじゃん。」

「ちょくちょく敬語崩さないでくれる。」

「ご、ごめんなさい。」

 それからみっちり四時間。

 僕と女の子は、おーい、でてこーい。ごっこをした。

「楽しかったわね。」

「うん、意外と。」

 そんなわけない。

「じゃあ、今日からあたしがリーダーで、あんたが部下ね。これから毎日ここにきて、おーい、でてこーい。ごっこをやること。はい、リーダー宣言だから絶対に言う事聞きなさいよ。」

「えぇ。やだぁ。」

「えっ。」

 女の子はそこで初めて戸惑ったような表情を見せた。

 首を傾げて後頭部のあたりを掻くと何度か僕の顔色を窺ってくる。

「じゃ、じゃあ。今日からあんたがリーダーで、あたしはずっと副リーダーでいいから。その、明日もここで遊ぼうよ。」

「ここじゃなくて、もっといろんなところに二人で遊びに行こうよ、副リーダー。」

 女の子が一瞬笑顔になるが、両手を腰に当てて顎を少し上げて見せる。

「しょ、しょうがないリーダーね。ま、副リーダーのあたしが、じゃあ色々考えてあげる。」

「ううん。」

「あっ、そっ、そう。」

「二人で考えようよ。それで、二人一緒に遊ぼうよ。」

 女の子が黙ってしまう。

 僕も何となく黙った。

 そして。

 僕は五日後に絶対死ぬ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る