17日目 Strip Service Cha-cha
先輩は、お兄ちゃんのこと知りませんよね。
いや、知らなくても大丈夫です。
いたんです。
わたしに。
お兄ちゃんが。
はい。
お兄ちゃんです。
姉じゃなくて。
あたしは兄妹でした。
今は、兄妹じゃないです。
ずいぶん昔なんですけど。
お兄ちゃんはあたしのことが大好きで、本当になんていうか、そういうのを外でやるかなぁっていうようなこともあたしに向かって平気でやるんです。
シスコンなんじゃないか、なんて、周りの人は言ってましたけど。
でも。
あたしはお兄ちゃんのこと好きでしたよ。
血は繋がっていなかったけど。
本当に妹みたいにかわいがってくれたし。
結局、家族の中にわたしと血の繋がっている人が誰もいなくて、いいように扱われていたのに、それでも何とか助けようとしてくれました。
大好き。でした。
うん。
大好きでした。
お兄ちゃんは。
お兄ちゃんは。
お兄ちゃんは先輩のこと好きでしたよね。
先輩は知ってましたよね。
お兄ちゃんが友達としてではなくて、本当に先輩に向かって恋してたってことくらい。
分かってましたよね。
何で、無視したんですか。
なんでちゃんとふってあげなかったんですか。
お兄ちゃん凄いショックだったんですよ。
ちゃんと告白したのに、ちゃんと振ってもらえなかったって。
ずっと、ずっと、部屋で一人で泣いてたんですよ。
あの、お兄ちゃんが、ずっと泣いてたんですよ。
先輩の何気ない、意味のない無益な優しさと、後のことを考えられないそういう事なかれ主義のせいで。
わたしの大好きなお兄ちゃんはずっと泣いたんですよ。
お兄ちゃんはその後、車に轢かれて死にましたよ。確かにあれは自殺なんかじゃないし、飲酒運転でした。ただ、お兄ちゃんの運が悪かったってことだとも分かります。
でも。
じゃあ、なおのこと。
もうすぐ死ぬ運命だったお兄ちゃんを。
そんな悲しい気持ちのまま死ぬことにした。
先輩の罪って何なんですかね。
知ってますよ。
先輩、バラバラ殺人したことあるんですよね。
人の体、解体したことあるんですよね。
知ってますよ。
わたし知ってますから。
ちゃんと、撮影してるし。
ちゃんと、いつだって警察に言えるように全部、証拠は揃えてますから。
そうですよ。
先輩のこと大嫌いです。
大嫌いですよ。
でも。
お兄ちゃんの気持ちが分かるからなのかもしれませんね。
お兄ちゃんが先輩を好きになった気持ちも分からないでもないんです。
あぁ。
たぶん、こういう喋り方が好きになったんだろうな。自分とこういう所があっているって本気で思ったんだろうな。理解してもらえるって、受け入れてもらえるって思っちゃったんだろうなって。
分かるんですよ。
分かるから。
わたしも。
やっぱり。
本当にどうしてか分からないけど。
お兄ちゃんが好きだった人をそこまで憎めないし、殺したいって思えないし。
お兄ちゃんみたいに、わたしも、ほんの少しから始まったのに、ちゃんと好きが大きくなったんです。
好きですよ。
大好きです。
お兄ちゃん、飲酒運転の車にはねられる瞬間、何してたと思います。
携帯握ってたんですよ。
先輩にメッセージ送ってたんですよ。
変な感じにしちゃってごめんって、そこまで文字を打ってたんですよ。
それ。
送れなかったんですよ。
車にはねられて送れなかったんですよ。
だから。
もう。
わたしも疲れたし。
もう。
どうにかできませんか。
先輩がどうにかしてくださいよ。
兄妹揃っておとしたんですから、後は先輩の番じゃないですか。心とか気持ちとかこっちはもう十分ぐちゃぐちゃになったんですから、明日からは、先輩が心をぐっちゃぐちゃにして生きていってくださいって。
先輩。
大好きですよ。
本当ですよ。
僕はそれだけを一方的に電話越しで聞くと、通話ボタンを押し。
切った。
そして。
僕は十三日後に絶対死ぬ。
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