7日目 Bitch Fall Ska

「このビルの屋上からだと遠くまでよく見えるよな。」

「間違いないですね。」

「知ってるか。町中で起きた爆発事件。警察はある程度、犯人が誰なのか分かってるらしいぜ。」

「そうですか。」

「爆弾魔らしいな。なんか、この町に逃げてきたらしいぜ。」

「へぇ。」

「なんだよ、興味ねぇのかよ。」

「なんでここに呼んだんですか。」

「昔は、今みたいにこのマンションの屋上まで登って遠く見てただろ。」

「見てましたね。」

「あの時は、楽しかったよな。」

「そもそも余り楽しいと思えることが少なかったですし、ゲームセンターもゲームも家にありませんでしたからね。」

「でも、楽しかったよな。」

「そうですか。」

 友達は、僕の表情を見つめると不満そうにした。

 屋上から眺めることのできる町は、所々に大きく灰色の穴が空いてしまっているようだった。その周辺を駒のような人間が少しずつ移動し、何か集まったり離れたりを繰り返している。

 凡そ眺めるに値しない光景。

 分かっているのに、なんとなく眺める。

「お前のこと、好きだから俺。」

 友達の性別は男だ。

 僕は友達の方を見ない。

 そういうことだ。

「僕は別に好きじゃないです。」

「分かってるよ、恋人っていうか、あれだろ、そういう関係にはなれないってことだろ。」

「いえ、そもそも友達の中で、そこまで貴方は仲の良い方でもありません。」

「そんなことねぇだろ。俺とお前は友達としては結構仲良しだろ。」

「仲良しではないです。一方的です。」

「お前、彼女とかいないだろ。」

「います。」

「いや、嘘だろ。」

「嘘じゃないです。」

「あの、女か。昨日、コンビニの前を一緒に歩いていた。」

「たぶん、そうですね。」

「あの女、うぜぇな。殺すわ。」

 僕は黙っていた。

 友達は僕のことを見つめてから肘でわき腹を小突き鼻で笑った。誤魔化すような感じだったが、それも直ぐにやめてしまう。やめたせいで余計に空気が悪くなる。

 冗談っぽくしたいのに。

 冗談にできない自分の力量のなさと。

 冗談らしい空気に溶け込ませる僕からの協力を得られないと感じるや否や。

 直ぐに手すりを飛び越えて片足を、屋上から外へと浮かせる。

 僕は咄嗟に友達の手を掴んだ。

「何掴んでんだよ。俺のこと好きなんじゃんやっぱ。」

「嫌いです。」

 僕が手を離すと、友達はそのままバランスを崩して屋上から落ちていった。

 僕は手すりを乗り越え下を覗き込んでみる。

 下の階のクーラーの室外機の所に丸い血の跡とへこみを見つける。

「びっくりしただろ。」

 僕は下の階から聞こえてくる友達の声に心底安堵した。その瞬間、足に力が入らなくなり座り込んでしまった。

「生きてるんですか。」

「窓から滑りこんだ。ちょっと、顎打ったけど。」

「そうですか。」

「ちょっと、待ってて。上に戻るから。」

 それから二時間経っても、友達が屋上まで登って来ることはなかった。

 家に帰ると、母が。

「あんたと滅茶苦茶仲良くしてた男の子いたでしょ。あの子、なんかさっき引っ越し完了してお別れの挨拶に来てたわよ。六人家族だったのね、あの子の家。急だったみたいだけど。あんた知ってたの。」

 僕は首を傾げて麦茶を注ぎ入れて飲むと、そのまま少しだけ泣いた。

 そして。

 僕は僕は二十三日後に絶対死ぬ。

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