4日目 Duck Stay Folk

 僕は、家で時間を過ごしていた。

 学校が休みになったのだ。

 理由は知らない。

 おそらく、であれば何となく分かるが、明確ではない。

 そのため。

 理由は知らない。

 家には一人だった。

 父も母も家にはおらず、兄もいなかった。

 非常に殺風景な部屋の中で、僕は今日という日の残り時間を指折り数えるふりをして過ごしている。余りにも、退屈なその遊びは逆に、新しい遊びを発明するきっかけになるのではないか、と考えられたがそれも直ぐに干からびる。

 効果的なのは、自分に対して興味を持つことである。

 結果として。

 僕は外部的な要因によって何かしらの考えが歪むようなことなど一切なく、自分のために時間を使うことができる。

 残りの日数で思い出の数を稼ぐという、凡そまともではない考え方の上で生まれた、より常識的な発想。

 嫌味でもなんでもなく、僕は僕の生き方を見つめることで、少しずつそれ自体が思い出そのものになっていた。

「ごめんください。」

 僕は出る。

 二人いた。

 一人は僕の母の二番目の妹でその横には少年がいた。

 息子なのだそうだ。

「このあたりで、フラワーアレンジメントの教室があってね。できればうちの子を預かって欲しいんだけど。」

 少年の姿は何度となく見たことがある。

 正月の挨拶回りや、家にある親戚の結婚の時に撮った写真の中、等。

 表情も、背格好もそのままだった。

 成長せずそのまま生き続けているかのような、冷たいプラスチックのようなそんな存在に見えた。

「姉さんはいないのかな。」

「母は不在ですね。」

「弱ったなぁ。」

 僕は。

 僕は預かることにした。

 叔母さんの趣味がフラワーアレンジメントであることは知っていたし、かなりはまっていることも母から聞いていた。

 僕は少年を家にあげて、そのまま二人で叔母を見送った。

「何してあそぼっか。」

「なんでもいいよ。」

「それが一番困っちゃうんだよなぁ。」

「じゃあ、お人形さんごっこ。」

「いいねぇ。」

 僕は少年と一緒に、段ボールを人型に切り抜いてクレヨンを塗ると、四人家族を作り上げた。

 台所は実際の台所。

 テレビは実際のテレビ。

 その他諸々はその他諸々。

 手作りの人形を使って、家の中を縦横無尽に歩き回り、その度に設定を追加していった。

 少年は始終笑顔だった。

 僕は今日が急遽決まった休校日であることなど忘れて、まるで夏休みの一日かのような時間が過ぎていることに気が付いた。

 こういうものなのかもしれない、思い出というのは。

 僕は麦茶を取り出し、二つのグラスに注ぎ入れる。

 少年は僕よりも早く飲み干すと、持っている人形の髪の毛を金色に塗り潰し始めた。とても美しかった。

「お母さんは、今頃、フラワーアレンジメントでもやってるんだろうね。」

「あのね。」

「うん。」

「お母さん。もう二度と帰ってこないよ。」

 人形を持って、遊ぶ。

 それが。

 約二時間半。

 しっかりと。

 叔母は帰ってきた。

「ごめんね。預かっててもらって。」

「いえ、大丈夫です。」

 少年は叔母と手をつなぎ、丸い頬をほんのり赤くしながら大きな目を動かしていた。手を広げて僕に向かって伸ばしてくる。

 僕はハイタッチをする。

「ほら。」

「どうしたの。」

「ほら。」

「どうしたのかな。まだ、僕と遊びたかったの。」

「やっぱり、お母さん迎えに来てくれなかったでしょお。」

 少年は叔母と手をつないで、僕の家を出た。

 そして。

 僕は二十六日後に絶対死ぬ。

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