第10話 新たに

街の中央広場近くにある人気の居酒屋“ほろ酔い亭”でアーマーは酒を片手に、そこに集まって飲んでいる商人や旅人、はたまた兵士や魔術師などの人々と愉快に酒を酌み交わしていた。周りから見れば、まだ明るい内から飲んでいる“飲んだくれ連中”の様に見えるのだが……


「あ~そおったい! あの村からきたったいね! よっしゃー飲まんや!」


そんなアーマーに付き合うように来ていた深琴は、困った様子でアーマーを見ている。


(アーマーさんまだ日も暮れていないのにお酒なんて……)


そう思っている深琴など構わずに飲みながら酒場にいる面々と楽しそうに飲んでいる。そこにハマとクランメンバー達が戻って来た。


「アーマー運営管理事務局に申請してきたよ!」


「遅いばい!……こっちの予定が変わったばい」


アーマーが待っていたといわんばかりに戻って来たメンバーに言った。


「ハマさんアーマーさんたら! こんな時間からもう、お酒を飲んでるんですよ」


言われたハマは深琴に彼の特技の一つを説明した。


「あはは……アーマー、深琴ちゃんに説明してなかったんだね?」


ハマの返した言葉の意味が深琴にはわからなかった。


「深琴ちゃん、アーマーは、ああやって情報を集めているんだよ」


「え?」


「アーマーは酒にはめっぽう強くってね……あのやり方で話し相手から色々な情報をもらうんだよ、お金になるような情報や、今回の場合は追いかけたいシーフに関する情報かな」


「え! あれで情報を手に入れられるんですか?」

ハマの説明にびっくりしている深琴にアーマーがこっそり近づいてきて。

「そおっちゃんね~こうやって使えそうな情報を集めとーとよ」


言いつつ深琴のお尻を撫でる。

その行為に悪寒を感じながらアーマーを剣で殴る深琴。

その姿を見て苦笑いしながらアーマーに聞いたハマ。


「はは……アーマー、なんか掴めたかい?」


アーマーは起き上がりながら集めた有力な情報をそこにいるメンバーに話し出した。


「ああ……いくつかね」


彼が手に入れた情報には大きく分けて二つあった。一つは見知らぬ集団がイリノアの街から北西にある大都市ラスグーンに向かう街道を使っていたのを何人かの商人が目撃していたと言う情報だ。もう一つは近い時期にそのラスグーンでクラン大会が開かれると言う情報だった。


「という事は、その集団が探している悪い盗賊シャドウシーフの集団?」


桔梗がいうと、その後に続いてアーマーが付け加えるように話した。


「多分そうっちゃんね、この街とラスグーンを行き来している商人が言うけんね……知らない集団を見かけたら、わかるとよ」


「そうだとするとラスグーンで盗んだ物を売りさばく段取りかな?」


「そうかもしれんね~もしくはそこに、売りさばく元締めみたいな奴がいるかもしれんけんね」


ハマは考えを巡らせて予想していき、アーマーの発言にはピロがそっと反応した。


「元締め」


「もし、そうだったら仲間の仇と深琴ちゃんの盗られた物を今度こそ取り返すぞ!」


深琴はそのハマの言葉を聞いて少々戸惑いもあった。盗まれた荷物を取り戻したいという気持ちはある。しかし盗まれた物には魔法がかかっており、どのぐらい重要で価値のものか理解できていない――このままセテの村に戻り、兄に謝った方がいいのではないか? と思う反面すでに一緒に取り戻そうとしてくれた人たちが被害を被っており、そのまま逃げる様に村に戻る事がどれだけずるい事かと言う思いもあって、上手く整理がつかないでいた。


(でもまた同じ様な事になりでもしたら……)


その深琴の気持ちを見越したかのようにアーマーなりの心使いのある言葉をかけてきた。


「あげん事にならん為にも情報収集と新しいメンバーを集める必要があるっちゃんね」


その言葉にメンバーたち一同はうなづいていた。


「と、いう事でこれからの話はここまで! 今日は出発前の景気づけするばい!」


その言葉を合図にしたように、みんなは飲み物や食べ物の注文しはじめた。


「そうだな! あとは簡単な話をしながらにしようか! よ~し飲むぞ~」


「おーい!ここの席に酒と食い物じゃんじゃん持ってきてくれ!」


ハマとアーマーの注文する光景に深琴はさっきまで悩んでたことなど吹っ飛んでしまい、あっけに取られていた。


「あの~ハマさんいいのですか? まだ夜にもなっていないのに、こんなので?」


深琴が言うとハマは食べ物を口にしながらその疑問に答えていた。

「あ~俺たちはこんなふうに出発前はよくやるんだよ、まっ!時間的には早いけど、景気づけだよね」

それに付け加えるかのようにメンバーで唯一の女性であるミワンが深琴に言う。


「びっくりしたかも知れないけど――うちのクランはこんな感じなのよ……ごめんね」


ミワンは彼女の肩を引き寄せながら伝えると、深琴はみんなを見ながら微笑んでいた。今までこんなふうに一緒に行動をし、話しをして助け合うことが無かった深琴にとって、この感じと仲間がとても新鮮で心地よく思えはじめていた。

――望郷の想いと共に――(兄様、取り返したら帰ります)

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