第11話 旅立ち

セテの村にて医師のファブルがオルトに問いかけていた。


「オルトおまえ、まだ深琴を迎えに行かんのか! 深琴が出て、もう四日も経っておるのじゃぞ! 心配にならんのか」


言われたオルトは淡々と言い返した。


「深琴も子供ではないだろ、用事のついでにたまには羽を伸ばすのもいいと思うが」


「ばっかもん!」

その言葉と共にオルトにゲンコツを落としたファブルだった。


「深琴はお前と違って皆に心配をかけさせる事はせん! そのような事であれば連絡の一つもするはずじゃ」


「言われてみればそうか……わかった明日にでもイリノアの街に様子を見に行ってみるとしよう」


叩かれた頭をさすりながら、言われてみればとオルトも納得した。ファブルは首を振りながら心配そうにオルトに言った。


「おまえは……頼りになるのかならないのか」


困り顔しながら言うファブルだったが、オルトも内心では心配はしているのだった。

(何かあったのか?……深琴)




翌日早朝、イリノアの街から出発する為に中央広場に集まるクランメンバー、

そこに深琴の姿もあった――彼女なりに考えてみんなと一緒に行くことに決めた。当然セテの村のこと、兄のことなど考えたが彼女の中の何かが後押しして旅立つことを決めたのだった。


「さて、みんな集まったようだね、出発しようか!」


街はずれの道へ歩き出したメンバーたち、そこにヤンヤの姿はなかった。


「やっぱりヤンヤさんは無理でしたか……」


深琴の言葉にハマは明るく振る舞いながらヤンヤのことを話した。


「ヤンヤには怪我を治すのを専念してもらう! その間に俺たちは深琴ちゃんの盗ら

れた物と、仲間の借りを返させてもらうさ!」


「そうたい!あいつらの目的の場所がラスグーンなら急がないといけないけんね! ヤンヤの怪我が治るのを待っているわけにはいかない……」


「大丈夫だよヤンヤの分も俺が頑張るよ!」


その言葉を聞いてアーマーと他のメンバーが首を横に振りながら全否定してみせた。


「ハマ……大丈夫、お前には期待せんから」


「そうですね……ハマさんは普通にしていてもらった方がいいですね――大変になるから」


「え~ちょっと……一応俺、クラマスなんだよ、頑張った方が」


そんな会話をしながらイリノアの街を後にした聖夜に舞う天使一行。

そして、その一行の姿を木々の間にひそめながら見つめる人影があったことは誰も気が付いていなかった。


深琴がイリノアの街を離れてだいぶ過ぎたころ、イリノアの街に到着したオルトは深琴をすぐさま探し始める。最初に訪れたのは前回来た時に行った“風変わり”な店に寄ることにした。


「まずはあの店に行ってみるか……」


“風変わり”に到着したオルトは店の中に入って行くと、そこには店主の姿はなく店の従業員が清掃をしている所だったのでオルトは店員に話しかけた。


「すまないが、店主はいないのか?」


「どちらさんですか?」


「店主の知り合いなんだが、少し尋ねたいことがあってな……」


それを聞いた店員は掃除の手を止めてオルトの質問に答える。


「マスターなら今、用事で街の医療施設に行っているはずだけど……」


「どのくらいで戻る?」


「ん~多分、夜の店が始まる時間には戻ると思うけど……なにか伝えておきましょうか?」


「そうか……」


そう店員に言われたオルトは簡単なことづけを頼んだ。“風変わり”を出たオルトは他の店でも情報がないかあたって見ることにした。


「一応、他を当たってみておくか……」


オルトは宿屋や、いくつもある店を回り深琴の足取りを追うため街にある商店に聞き込みをするが、深琴に繋がる情報は入らなかった。


「これで五件目か……」


深琴の足取りが掴めないオルト、諦めることなく次の店にも聞き込みに入った。


「いらっしゃい!」


「すまぬが人を探している、この街に……女性を探しているんだが……このような者は来なかったか?」


矢継ぎ早にオルトが用件を説明するが店の主人の反応は悪く返ってきた。


「ん~旦那、何か買う用でないなら帰ってくれないか。こっちも忙しいんだ」


煙たそうに言う店の主人にすかさずオルトは、金貨を一枚カウンターに置いた。


「忘れていた」


現金なもので、金貨を見ると主人は一変して丁寧な言葉に変わり説明した。


「すみません旦那……お探しになっている女性ですが? いくつくらいの年でしょうかね~、あっしもこの街の情報は入る方でしてね」


手もみをしながら答える主人は笑顔で対応した。


「そうか――年は十七、結構長い黒髪だと思うが、よく後ろに束ねている背はあまり高くはない……このくらいだ」


深琴の容姿を身ぶり手ぶりを交えて説明するオルト、しかしこの店からも手がかりになるような情報は得られなかった。


「この街にはどの位の商店があるのだ?」


オルトがその店主に聞いた。すると店主が愛想よく応える。


「結構ありますよ旦那……」


店主の答えは分かっていたつもりだが、やはりその答えが他のところで聞いたのと同じことと、この先の足取りを追う聞き込みに難航させられそうな感じにオルトの気が重くなっていた。 


「そうか……ありがとう」


店を出るオルトに店主からは定番のような言葉しか帰って来なかった。


「すみませんね旦那、力になれなくて」


(深琴……どこにいったのだ)


オルトはため息をつきながら思いにふける。深琴のことを考えて……

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