愛情

 そして、高校生になって。


 私はようやく理解した。


 あの日お姉ちゃんが、私を見てくれなかったこと。


 あの日からお姉ちゃんが、私を見てくれなくなったこと。


 その理由と意味を。


 私はようやく理解した。


「あの、お、お父さん」


「ん?なんだ?」


 家族との団欒だんらん一時ひとときであるはずの夕食。その夕食に、もうずっと、お姉ちゃんはいなかった。


「お、お姉ちゃんのことなんだけど」


「麗香がどうかしたのか」


「たまには、その、一緒に食べないかなー、なんて・・・あ、あはは」


「・・・・・・あいつが自分でいらないって言ったんだぞ。別にいいんじゃないか」


「で、でもさ、たまにはいいんじゃないかって思って、その・・・」


「じゃあ誘ってきたら?呼んでらっしゃいよ」


 そう言ったのはお母さんだった。三人分の料理を作りながら、何の疑問も持たずにそう言った。


 その発言がどれだけおかしいかを。


 もう二人は、分からない。


「いや、その、私じゃなくて二人が・・・呼んで、来てくれたら、その・・・・・ぃ、いいんじゃないかって・・・」


 ぼそぼそと、聞き取れないような声で私は言う。だけどそれでも二人はその言葉を聞き取ったようだった。



「・・・・・・・・・」


 聞き取れない方がよかったと、後悔した。結局それ以上、私は何も言えなかった。


「優香は麗香みたいになっちゃダメよ?次のテストもしっかりね!」


「・・・・・う、ぅん・・・・・・・」


 震える声で返事をした。怖かった。もし成績を落としたら何と言われるか、怖かった。だって。


 ずっとお姉ちゃんを見てきたから。


 私には、一人で生きていける力はない。お母さんの料理がないと生きていけないし、お父さんの庇護がないと生きていけない。だから二人の機嫌を損ねることが怖かった。お姉ちゃんみたいに何でも一人でやる覚悟なんて、持っていない。だから私は今日も。


 天才少女を、演じ続ける。


 それが、どれだけお姉ちゃんを苦しめるかを、理解しながら。


 ようやく、理解しながら。


 お姉ちゃん。


 私はもう一度、お姉ちゃんに褒めてもらいたい。お父さんとお母さんではなくて、お姉ちゃんに。


 ううん、褒められなくたっていい。


 お姉ちゃん。


 お姉ちゃん。


 お姉ちゃん。


 お姉ちゃん、大好き。


 普通の姉妹でよかったのに。


 なんでこんな風に産まれてきちゃったのかな。


 普通に、話がしたいよ。


 普通の姉妹みたいに、繋がりたいよ。


 お姉ちゃんはどうしたら、私を。


 お姉ちゃんの隣に、いさせてくれるの?


 お姉ちゃんの笑顔、見たいよ。

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