カシュフォーン記念財団(4)永遠銀盤-1

 三ノ宮みのみや こうは、ほとんどが警視庁特殊監察課に押収されたあの中央指令室フロアで、ゲーミング=チェアに沈んだ。




 ”普通なら未成年を誘拐したわけだから、あなたは極刑ということもあり得ますよね?”

 そう言い寄ったのは、椿井という女性警部補だった。しかし。


「私たちに協力してください」

 事情聴取の部屋で、椿井はサインを入れろ、と書類を持ち出してきた。


「ど、どういうことだ……」

「『財団』の情報提供を」

 うっ、と三ノ宮は声をあげる。


 財団--あまたの団体のうち、椿井が指定し、三ノ宮が畏怖するそれの正式名称は、『カシュフォーン卿記念財団』と呼ばれる。


 それでも三ノ宮は最後の抵抗か、わずかながらにをかける。

「機動人間を世界で初めて開発したとされる、そして西欧にあったとされる某国のカシュフォーン博士の功績を称える--しかしながら現在のロボティクス技術にはカシュフォーン博士の研究を継承しておらず、架空の研究者という説もあり、という、あの?」

「……」

「もちろん僕も機動人間の秘密ソースは知りたくて、独自研究を続けているうち……水間さんのうわさ、永遠銀盤のうわさをきいて、というわけですよ」


 ぴっ、と書類の1枚--署名欄の空いたそれが椿井によってさらわれる。

「なるほど。では、で証拠品を押収させていただきます。--令状は取ってまして。かりに貴方がこのまま何もなかったとしても、勤務先のほうは何もないわけにはいかないでしょうね」

 三ノ宮の顔から血の気が引いた。かりに、先ほどまでの出来事が世間に漏れなかったとしても、平日の勤務先への心象は確実に悪くなる。

「僕が知っているのはほんのわずかですよ……」

 三ノ宮は頭を垂れた。


『貴方には財団についての調査を依頼します』

 つまり三ノ宮自身が知っているものもわずかであり、三ノ宮の能力でもって今後、協力しろということだった。


 あわてて椿井から紙を奪い取り、サインを入れたことを思い出しながら、三ノ宮はため息をついた。






 水間 識人ひろとと水間 花那子かなこは、家の研究ブースのデスクで、電子ファイルをながめ、(こちらも)ふうとため息をついた。その姿を、離れて部屋の入口から見ていた椿井が、同調して声をかける。


「だめでしたか」

「偽物でしたね、これも」

 と数件のファイルを確認した識人。

「ここまで偽物しかないというのも、ある意味才能かもね」

 と小さく笑う花那子。


 永遠エターナル・銀盤シルバボードは世界各地に破片となって散り、完全にすべてを回収することは無理だろうという見解は、これを知るどの研究者も理解していた。一方で、高値で売買されたり、このように偽物で釣って本物と交換--永遠銀盤どうしの「トレーディング」もあることから--されることも承知している。


 永遠銀盤は、それに書かれた機動人間に関する情報がスキャニングできれば、所有し続ける必要は無い。それは、そのパーツに記載された技術をために、誰かがということも示す。


「今回入手した、三ノ宮が所持していた分は」

 部屋のプロジェクタに、将棋盤のような9x9のマス目が投影される。永遠銀盤はこれまでの水間夫妻や椿井たちの調査、既知の情報から、おおよそ正方形で、9x9に分割した位置で、類似する機能が記されているとされる。


「7-六、3-四あたりの劣化複製品コピーと考えられるね」

「序盤も序盤の駒、ですか……」

 識人の説明に、かつて女流棋士を目指していたこともある椿井が応える。


 水間夫妻側には、およそ81の位置のうち、60%の情報があった。永遠銀盤そのものを持っているのは、そのうち半分、全体の3割くらいで、残りは永遠銀盤をコレクションしている個人や博物館から、情報を得たものである。


「『財団』側にはいまだ、どの程度のは、不明ということですが

 ……、三ノ宮にも手伝ってもらいますので、ああつばさちゃんには二度と会わせません」



 椿井は話を続ける。


「S県の県立S高校に、ヒューマノイドがいるという情報について整理したいと思います」


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