カシュフォーン記念財団(3)ヒューマノイド”アイカ”-3
「あ」
博士は胸ポケットに連絡用のPHSが無いので、部屋に戻ると言う。
「すぐ戻るわ、始めてて」
「タバコは忘れないのに」
「む」
いつからおまえはそういう話術(アルゴリズム)を学習してるんだ、とぶつぶつ言いながら、博士はもと来た通路へ去った。時間にして120秒以内だろう。【バトルモード】のタイマーとして300秒をセットした。
『バトルモード、起動』
目の前がゆらぐ。高解像度カメラに視線入力デバイスの切り替え。中庭の花が、赤い。この腕の赤ではない色彩。
『-------』
花が揺れる。風力、感圧、センサーはバトルモードのおかげで通常よりも何倍もの速さと制度でメモリに流れ込む。人間は本当にこの情報を処理しきれているのだろうか……。
花が揺れる。花が揺れる。
『あ……』
林 明羅はデスクに置いてあったそれが、コール音を出していることに驚いた。自分から架けるばかりのそれを取る。
「林です」
話を聞きながら、中庭に折り返す。
「はい、はい……?!」
相手の言葉に予想外のものが含まれていたからか……途中で立ち止まる。
「あいつが?……あいつらの子供が?」
しかし話は、中庭側からの喧騒で中断された。床が振動している。
「林博士! アイカが暴走しています! どうにかしてください!」
「……」
林は通話の相手に「また後で」と切り捨てる。
中庭中央の花壇で、たしかにアイカは、暴れていた。子供がはしゃぐようにも見えなくはなかった。
しかし、アイカには装甲があり、小型のバルカンにも銃弾が入っていた。近づいた他の人間の足元に向かって、見境なく掃射する。
『バババババババ!!!』
『うわあああ!』
流れ弾におそれ、一気に中庭から人は消える。
林は腕時計をいちべつし、ずかずかと花を踏みアイカの方へ向かう。
アイカの【バトルモード】には、まだ外部音声系統の機能を加えていない。身体の中のモーターや、部品が回転する音が耳につく。
『キュイイイ、キュルルルル、』
彼女は視界に林を入れても、さきと同様に、攻撃態勢に入る。
『ハヤシ=サン!』
『博士!!危ない!』
日本語、外国語での悲痛な叫びが、中庭の入り口から飛ぶ。
アイカはマゼンタに彩色された右腕を200度あまり水平に回転させる。そのまま反動すれば、確実に林のあごの骨を砕くことができるだろう。しかし、林は一歩も動かない。
はじかれたようにアイカの右腕が、弧を描き--
林の目前でそれは止まり、
アイカは瞳の色を失い、自重で後ろに倒れた。
『ズン、』
花が、散った。
「……244秒か。クォーツのせいだな」
アイカの電源が無くなった事がわかり、安堵して現れた白衣の男たちに、林は「台車」と指図した。
後でアイカには謝らなければならない。そして、さきの電話の続きと……、途中まで聞いた情報と……。それらの考えを巡らせる林をもし、アイカが見ていたならば、また「そんなに高速で処理はできません」とあしらわれるだろうか。林はふうとため息をついた。
「帰ろう、アイカ」
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