カシュフォーン記念財団(5)永遠銀盤-2

 財団の限られた者しか入室できない、サーバールーム。


 国内のスーパーコンピュータ規模とまではいかないが、いくつものサーバー=ラックが、書架のように整然と並ぶ。前面――とされるほうはサーバーの状態を緑色のLEDの点滅が続き、背面とされるほうはネットワークや電源のケーブルがひしめき連なっている。


 自分の研究室でたばこをふかし、たまにアイカに呆れられる--彼女としては「呆れる」というではなく、「理解不能です」と--ことが日常の林 明羅にとって、この部屋はあまり好きではない。


 大量のサーバー=ラックが並んでいるにもかかわらず、厚い透明の特殊防音壁で仕切られているため、自分のいる手前の空調音しか聞こえない。向こう側には、作業パーカー姿の男。サングラスとマスクで、表情は不明である。手に持っている、サーバー用SSDを手際よく、ラック前面からはめこむ。


「で、、本当にそんなことしやがったのか?」

 林はさきの通話の続きを問いかける。男はラックの操作端末コンソールを操作しながら答える。会話は、スピーカーを通して。

事件調査班からの報告です」

 財団の一部のメンバは、ニュースに載らない--あるいは消された、事故や事件の情報を収集する役割を遂行している。


「以前からマークしていた『Two Bracks . Tech』」ドメインについて、の開発が成されましたが」

「あー、あれな」

「ドメイン登録者の三ノ宮 皇が警視庁に」

「それとあいつらとがどういう」

 と林は問いかけて、気づいた。

「まさか」

「騒ぎを仕掛けたのは三ノ宮です。それをおさめたのは『機動人間』、おそらく水間=サンたちによる」

 ポケットのPDAが着信を告げる。これは財団管理のもので、サーバールームにも持ち込めるものだ。届いた画像は、ぼんやりとした人形と、戦車のような影。

 精度は悪いものの、これが『機動人間』とするならば……林は一気に、5年ほど前の『水間夫妻』からの年賀状を思い出す。

 かつて同じ大学院で研究をしていた仲間が結婚し、息子と微笑む写真があった。

「『子供にんげん』を使いやがったのか?!」









「……明羅君から」

 花那子からハガキを渡された識人は、目の前の妻と同じように驚きの表情をみせる。

「年賀状の返事すらないのに」この声は乾いていた。識人も、花那子も、かつての同窓生、同じ研究室にいた仲間からの便りが、ただの挨拶ではないと知っていた。


「近くに寄る用事があるから、飯でも食わせてくれ。あと、カシヒト君にもお土産を持って行く」


カシヒトに、土産を。それは、明羅がカシヒトという機動人間の存在に気づき、何らかの行動アクションを起こすことを示しているのだろう。

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