オペレーティングシステム”アルファー”

「どうだ、の具合は」

「はっ、いまは疲れている様子で、寝ています」

「あとはあの機動人間が来るのを待つだけだな……ふふ」


 カシヒトたちが向かった山中には似つかわしくない、さまざまな機器やモニターが並ぶオペレーティングルーム。ここは、機動人間の技術を研究する施設であった。ただし、研究成果はその部屋の中央の、心地のよさそうな椅子に座る男が「世界征服」の野望に利用するための。



 三ノ宮みのみや こうは、昼間こそ普通のシステムエンジニアを職業としているが、本来は『永遠銀盤エターナルシルバボード』を集め、自分が総統となる「機械人間国家」を作る野望を持ち、山中の古い施設を研究所としていた。


「水間研究所、水間識人も……まさか息子に技術を使っているとは」

 これまでの調査で、永遠銀板を持つ個人や団体が、世界にいくつか存在することはつかんでいた。正面から交渉しても、野望のためになど、データをもらえるはずもなく。

「永遠銀盤のかけらをもつもの同志、どちらが優れた科学者かを証明してやろう、僕の『破動神』で撃破してから……もちろん、そちらの情報もいただくが」

「司令官」

「何だ」

「レーザー射程距離に機動人間が入りました!」

「よし」

 司令官と呼ばれた男、三ノ宮は椅子から立ち上がった。

「炎熱レーザーのロック解除。破動神に、電源を投入しろ」


 ◇ ◇ ◇


 星がにぶく光っている。


 つばさがとらわれて苦しんでいるとしたら、速く進みたくもなるし、さっきの不安を思い出したら、ゆっくり歩きたくもなった。

「つばさを助ける、それだけ……今はそれだけ……」

 ふと、足を止めた。土が硬い。いや、これは鉄だ。鉄の上に土や雑草を混ぜて乗せているな、と感じた。



「目標、停止。動作ありませんが……」

「撃て」

 突然、カシヒトの前方の土--を乗せた鉄板--がせり上がり、小さな蛇口のようなものがこちらを向いて、赤い光を出した。


 ”チッ”

『ゴウン!!』

 赤い炎が、一本の筋を描いたかと思った一瞬の後には、火柱が走り、筋の先にあった木が燃えだした。

 しかしその場所には、もう人影はない。


「目標損失!」

「赤外線レーダーで調べろ!」

「半径2キロ未確認!」

「ライトだ! ライトを点けろ!」


 まるでスポットライトが舞台にあたるように、カシヒトがさっきいた場所に光が集まる。足跡と、焦げた雑草だけだ。やがて、影がいくつか見えて、それが一点に収縮されてゆく……。

 カシヒトはレーザーが発射される直前、ジャンプしてかわし、『そっと』着地した。



「カシヒト、聞こえる?

 シェイドをかけて、リモートケーブルをさして」

 母・花那子のオペレート通りに、目の前にゴーグルのような透明の板をかけ、2本のケーブルを背負っている機械の箱から引き出す。

「対話型OS”アルファー”V1.0、起動。リモート、オープン……」

 頭の中で、小さなデジタル音が小刻みにひびいた。そして、機械でつくられた声を初めて聴く。


[ウェルカムトゥ オペレーティングシステム アルファー・・・]

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