僕にしかできない
「どうしたリウカ?! 顔の表皮膜が壊れているじゃないか!」
「申し訳ありません、カシュフォーン卿……、子供がたちの悪い奴らに囲まれていて……」
リウカはハンカチで顔を押さえてはいたものの、そこから油がしみ出していた。血のにおいもする。
「相手に、手を出したのか?」
「いや……子供をかばおうと、間にわって入ったのです。拳がここに当たって、血まみれになったのは相手の方で……子供は泣き叫びながら逃げてしまった。そこでやっと、自分の顔が壊れているとわかったのです」
カシュフォーンは、油を拭き取る特殊な布でリウカの顔を拭いた。布では油と水分が反発を起こしていた。
(なぜ水分が……?)
彼は一瞬考えた。
リウカの瞳から、また一粒、新しい涙がこぼれた。
「カシヒト」
母・
「晩ご飯……食べられそうかな……」
「……いらない」
開きかけのドアが動いた。父・
「ああ、起き上がらなくていいよ」
初めて聞く、強さをふくんだ女性の声。シュウにも姉がいるが、その声とも違っていた。
「カシヒト、さっき話しかけていたことだが……この人は、」
「私から紹介させてください。警視庁特命2課の、
「警視庁……警察?」
「はい、ただし、カシヒト君、君がふだん知っている警察とは違って、ある目的のもとに行動しています……今の私の仕事は、『機動人間』やその技術を護ることです」
識人が「それはできない」と言ったのは、「普通の対応」はできないという意味だったとわかった。
「カシヒト。休んでいる間に、車の居場所がわかった」
「……」
おそらく、そこへ行かなければならないのだろう。つばさを助けに行かなければならない。でも。
さっきまで見ていた夢のことは、どうすれば伝えられるだろうか。
リウカの本当の姿を見て、逃げた子供。自分も、機械だということが知られたら?
「……いやだ」
三人の大人に向かって、カシヒトはそう言った。しかし、普段なら……夕食のおかずに不満を言うとかといった程度ではあるが、自分の意見はほとんどきいてくれる両親の表情はゆるまなかった。
その理由を、椿井 御影が伝える。体を起こしていたカシヒトと目の高さをあわせて。
「私たち警察が、特殊事件捜査係を使って、つばささんを救出する作戦をご両親に提示したのですが、それよりもカシヒト君、あなたが救出に向かう方が、成功の確率が高いと試算されたのです」
「えっ……」
「つばさちゃんを、助けに行きましょう。
--あなたにしかできないことなの、これは」
「……僕にしか、できない……?」
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