つばさ、さらわれる

* * *


「なぜ大人達は、戦争をしてまで、物や領地を手に入れようとするのですか?」


 ”体を動かさなければ、喋ってもよい”と言われていたから、リウカはカシュフォーン卿が自分の顔の部分を間も、ぐちのような話をやめなかった。

 リウカの顔の左半分は、左腕、わき腹、左足とともに地雷に砕かれていた。

カシュフォーンが瀕死の状態の彼を救ったのである。ただし、カシュフォーンは

機動人間制作のための『実験台』として家に連れてきたのであるが。

 ネジのしまる音がリウカの声にまざってゆく。

「私には、理解できません。最初は、兵役を受けたころも、喜び勇んでいましたが、友が傷つき……自分が半身を砕かれた時に、それは不安になったのです」


「……」

 カシュフォーンはネジを閉めきってから呟き返した。

「以前……『金に困らなくなったのが、大人』だと言ったな、リウカ。

戦争は、大人が子供に戻ろうとする『けんか』なのだよ」

「けんか、?」


「自分達が大人だというのを認めたくがない故に、あらゆる手を使って何でも壊そうとする。この大人の悪い癖は、リウカや、その後の若い世代でしか叩き潰すことができないのだよ」


「……」



「……どうした?」

「…………」


「ああそうだった。

 痛みが限界を越えると、神経を一時的に切断するように設定したんだったな。

……私は、身勝手な大人ではない。お前に痛みを、からな……」



* * * * *



「カシヒト君? きいてる??」

「……あっ、」


 またいつもの夢だけど、かなりいやな夢。いろんなことが起こりすぎて、ぜんぜん眠れなかった。今日は昨日からのこともちゃんと話すから、学校を休みなさい、と識人ひろとに言われていて、一緒に登校しようとしていたつばさに、識人ひろとと、母親の花那子かなこが説明をしていたようだ。

「きのうのことは、警察や学校に伝えているんだけどね……」といったかんじで。

 その後、つばさが用事があるといって部屋に上がっていたのだ。

「やっぱ、きのうの、怖いよね」

「……あ、うん」

「でね、今日『タイムワンダー』の2巻、返してもらおうと思ってたんだけど、明日でいいよ、シュウ君にも言っとくし」

「あ、ありがとう。もう1回読む」

 カシヒトは自分のこと、たぶんつばさやシュウと同じ人間ではないことを、伝えたほうがいいのか、わからなかった。

 

「じゃあ、また夕方にプリント持ってくるね」

 つばさはそう言ってばたばたと家を出た。カシヒトが窓からのぞくと、つばさは振り向いて手をふって、学校への道を歩き始めた。

 そのすぐあと、ものすごい勢いで後ろから車の迫る音がした。登校の時間は、スクールゾーンで車は通れないのだが……いやな予感は当たった。

「!?」

 家の中を回ってたら間に合わない、とっさにカシヒトは窓を開けて飛び出していた。

 1階の窓枠から転げ落ちたけど、それよりも。連れ去られてゆくつばさ、真っ黒の服を着た男、真っ黒の車。

 カシヒトは無意識のうちに走り、地面にあった「自分の拳より大きめの」石を

 つかんで、走り去る車に向けて投げた!


「つばさ!」


『ガツン、』


 石は、車のバンパーに刺さるようにぶつかった。車は走り去り……つばさがさらわれてしまった……

「痛い……」

 カシヒトはその場にかがんだ。左足から、キシキシという音がして、関節が痛み

 だした。



「つらかったろう……」

 カシヒトは識人ひろとの言葉に、もう返事をしなかった。足はすでに分解されていた。初めてまともにを見た驚きと、痛みをがまんしているせいでもあったが。

 痛み止めを打つかと聞かれたが、断った。今はとにかく、つばさが無事かどうかが心配だった。

「右手を見てごらん」

 識人に言われて手のひらを見ると、少し皮がめくれて、灰色の鉄のようなものが見えた。

「投げた石に、おまえの皮膚膜や、パーツの一部が付着ふちゃくして、車にぶつかっていると考えられる。どこに車が到着したかも割り出せそうだ」

「そ、そんなことが……?! じゃあ、」

「?」

「警察に言って、つばさを助けてもらおうよ!」

「それは……できない」

「どうして?」

 識人はカシヒトの足のネジを一本閉め切ってから呟き返そうとした。

「それは……


 ……カシヒト? カシヒト?

 ああ…『セーフティモード』に設定してあったな。

 痛みが限界を越えると、動力を一時的に切断サスペンドするように……」

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