機動人間

 崩れた壁の向こう。砂利の駐車場のような広場の奥--こちらから見てだから、入口側に--見慣れた車、家の車、そしてそこから降りてきた父親の姿が見えた。そしてカシヒトと壁と父親の間には、少し前に自分に襲い掛かってきた者と同じ姿、黒スーツの男たちが数人いて、


「壁が?!」

と二人がこちらに振り向いていた。


「お父さん!」

 カシヒトは恐怖から逃れようと外へ抜け出た。肩が壁に当たったが、壁の方に

ひびが入った。

「カシヒト! 大丈夫だ! 走らないで!」

 父、水間識人ひろとはこの状況でも優しく話しかける。まるで、こうなることを知っていたかのように落ち着いていた。

「くそう! 息子が、『機動人間』だったとは!」

 口々に叫んだ黒スーツの1人が、胸元から何か黒いものを引き抜いて……カシヒトに向けた。その動いた男の手をみて、息をのんだ。マンガでしか見たことのない、黒い鉄砲!

「先に殺しておくべきだった!」

「わぁあっ!」

 カシヒトの恐怖は最高点に達し、彼はその場にくずおれた。


『ガシャン、』

 鉄がうごめくような音がした。どこから聞こえてきたかはわからないが、今はそれどころでもない。そして、けたたましい音が空気を切り裂いた。


『パアン!』『キイイン!』

 自分に向けて鉄砲が撃たれた……?! カシヒトは顔を上げて、からだの辺りを見た。血も出ていない。擦れて焦げたようなにおいがしていて、服が破れていて……鉄板のようなものがむき出しになっている……。

「?!」


「だめだ! 鉄砲これじゃ歯にたたない!」

「撤退だ! 司令官に報告!」

 黒服の男たちは、すぐさま周りに停めてあった車に乗り込み、急発進した。

砂ぼこりが舞い上がり、少しせきこんだ。


「お父さん……」

 識人ひろとは歩み寄った。丁寧にカシヒトを起こし、服のほこりをはらった。

「お父さん、僕は、あの人たちは……

いったい、どうなっちゃったんだよお!」


 親子の目が合った。

 識人ひろとの目に、悲しさが混じっているように見えた。



* * *


「昔……

 ある科学者が、を作った。

 その設計図を、何人かの科学者が発見し、複製できないか研究が始まった。

 父さんも、大学時代から、今の家で研究をしている仕事もやりながら、それを続けている。

 ただ、この研究を、悪用しようしている奴らがたくさんいる。さっきのも、その一つだ」

 識人ひろとは家に戻る車の中で、ふつふつと話し始めた。カシヒトは後部座席で、自分の変わり果てた腕をうつろに見つめていた。こんな状況で、何もできるはずがない。目を閉じても、さっき受けた衝撃が、やわらぐわけでもなかった。

「じゃあ僕は……、その、『機械の人間』なんだ……」

「……ごめんな……黙ってて……。

 4年の終わり、旅行行った帰りから体こわしてさ、インフルエンザで学校休んだろ?」

「うん……」

「あれは実は……旅行に行った事自体嘘なんだ……」

「……え?」

「車にぶつかって、重体になった。このまま一生意識が戻らないかもしれない、それを医者に言われて、ふと頭の中に、研究のことが浮かんだ。なんとかできないかと思って……永遠銀エターナル・シルバ……いや、設計図は完全に集まってはいないが、これでなら、おまえは助かるかもしれないと……思ったんだ」


(エターナル=シルバボードかぁ……ははっ、夢で見たまんまだぁ、)

 カシヒトは髪をかき上げて、皮肉るように笑った。そしてそのまま、座席に転がって横たわった。車の天井が、ゆがんで見えた。



 次に目がさめたときには、カシヒトはベッドに横たわっていた。時計を横目で見ると、夜中の2時頃だった。起き出して何か飲もうかとも思ったが、やっぱり寝なおした。


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