第3話 穴があったら入りたい
天照大神について、ちょっとだけ解説しよう。
天照大神または天照大御神(読みは共通してアマテラスオオミカミ)は、日本の神話に登場する神様のうちの一柱であり、かつて日本列島を創り上げる一大プロジェクト『国造り』を成し遂げたイザナギ・イザナミをそれぞれ父母にもつ由緒正しい存在だ。
天照大神とは、その名の通り太陽の神として位置づけられ神々が数多住む世界・
そんな天照大神には血を別つきょうだいが下に二人もいた。
夜の世界を司り性別が不明なツクヨミ。
そして、海原を取り仕切る荒くれた猛将であるスサノオだ。
特に、スサノオはかなりの食わせ者であり実姉・アマテラスが支配する高天原に来るなりアマテラスの実弟だからと権力を笠に着てやりたい放題の限りを尽くす。そんなスサノオのあまりの専横ぶりに、高天原中から苦情を申し立てられその都度後処理に奔走させられるアマテラス。
アマテラスはそんなスサノオを誰よりも溺愛しており、彼が何をやっても大らかに受け止めるだけだったため、次第にスサノオ自身の蛮行もエスカレートしていった。
しかし、ある時スサノオが悪ふざけを通り越してとうとう
これが有名な、いわゆる「
やがて、世界は闇に包まれた。そして、あらゆる厄災が
この後、芸能の女神であり日本最古の
変わって、現代。日本の田舎、
大昔から続く祭りとあってさぞご縁も深い由緒正しい行事なのだろうと、てっきりお思いのことだろう。
これだけは、言っておく。
ここ照日村は、天照大神とは縁もゆかりも何の接点すら持たないただの限界集落だ。
富山と岐阜と長野らへんの県境にある村であるため、そもそもカスリもしていない。岩戸が投げ飛ばされた
とはいえ、スサノオよろしく神様の威光を笠に着てやりたい放題やるなんてのは、実はここだけの話照美村だけじゃない。
どこぞの富山県では、なんと正月から三が日にかけ床の間に何のご縁もゆかりもない学問の神様・
肉親とその他村人たちの境遇にすっかり同情してしまった俺は、天照祭の神男としての準備に取り掛かっているのだった。
……たったの一行半で、前回までのあらすじと今回のとっかかり部分を説明できてしまった。
照美村とどこぞの富山県の風習を罵詈雑言ゲリのように垂れ流すだけで、Wordを丸一ページ分消費させてしまってたのに偉い違いだ。
そんな作者の執筆に対する姿勢と境遇にもすっかり同情しつつも、俺はおじいちゃんたちに連れられて、村で唯一の神社・照日神社へ足を運んでいた。
神社は村の真南にそびえ立つ小高い丘の上に建立されており、江戸初期に建てられたと伝えらえているそれは良く言えば年季が入って味があり、悪く言えばカビやら苔やらで侵食されきっており今にも倒壊しそうな掘っ立て小屋に思えた。
そんな神社で、俺はおじいちゃんたちともども天狗のような長い白眉と白髭をたくわえたやはりお年寄りであった宮司の口から直接祭についての説明を聞くこととなった。
実家での村人たちやおばあちゃんが語ってくれた時点である程度予測はついていたのだが、逢の儀において神男たる俺は同じく神子たる女の人とやはりセックスに興じなければならないらしい。
宮司の口から予想だにしない英単語が出てきた瞬間吹き出しそうになったが、中学生じゃあるまいし大袈裟に反応することを控えようとぐっとこらえた。ちなみにだが、おじいちゃんと村人たちは、みんな声を大にして笑いあっていた。ほんのちょっぴり、人生に絶望した。
そうして、しばらくの間神社にて基本的な性教育(おしべとめしべ……って、そこからかよ)を叩き込まれてから、宮司から儀式の準備の際用いるお清めの塩を大きめのビニール袋に大量に入れられたものを貰い、昼前に実家に戻って来た。
気になったので、女はどんな準備をするか聞いてみた。どうやら、同じ神社の境内に設けられた清水の井戸から直接水を汲みそれを頭から被り無垢な絹の衣で軽く全身を拭きつけるらしい。そして、軽く濡れそぼった状態で白装束に着替えてからアマテラスの祠と呼ばれる場所に向かうそうだ。一応、神子がだれなのかを問いただしてみたのだが、一向に教えてもらえなかった。
宮司曰く、相手の素性がわかってしまうと神秘性が薄まり儀式の成功も薄まるそうだ。
つまり、俺はどこの誰ともよく知らない女の人と不本意ながらセックスを強いられるというわけだ……なるほど、通りで筋は通っているらしかった。
その日の夕方。
明るいうちに宮司から聞かされた通りに、渡されたお清めの塩を身体中にさらさらと擦り付け手の届かない所はおじいちゃんにも手伝ってもらった。
「神男の先輩としてひとつアドバイスをしてやろう。大事な部分は特にしっかりと何度も何度も清めるのじゃ。清めすぎて困ることなんて、何一つないのだからな」
わざわざ両手を駆使してまでジェスチャー付きで教えてくれたことであったため、素直に聞き入れてその通りに何度も何度も大事な部分に塩をもみ込んでいった。主に、頭とか。
全身を塩でもみ込んだ後、あらかじめ用意された新品の白装束を身に纏う。なお、伝統にのっとり白装束の下に着込める下着は一枚(パンツ)のみとされている。パンツの股間部分は、塩もみなどの仕込みをしすぎたおかげで腫れあがり痛みも伴っていた。だが、行為の際に支障はないはずなのであまり気にも留めないことにした。
全ての仕込みを終えた俺は全ての家の明かりを落とし、火の点った提灯を右手に提げたおじいちゃんとともに玄関から出た。
家の前には、同じように右手から提灯をさげた村のお年寄りたちが待ってましたと言わんばかりに立ち尽くしているのだった。
おじいちゃんたちを引き連れる形でもって、遠くから祭囃子の合図を聞きながら所定の場所へ向かう。ちなみに、おばあちゃんはずっと前に神社の方へと先立ちそこでどうやら神子を他の村のお年寄りの女性たちと合流し別々に所定の場所に向かうらしい。
草履で村の歩道を闊歩する俺と、それを後ろからくっ付いてくる提灯の群衆。
まるで下手な大名行列か何かだ。
しばらく歩いていると、おじいちゃんが後ろから小声で耳打ちして来た。
「どうした、ケン? 少し歩き方が変じゃないか、その……少しガニ股というか」
「パンツの中、結構仕込んじゃったから少しチクチクしてるってそれだけだよ」
「ああ、なるほどな。気合いは十分のようじゃな」
適当に言いくるめながらも、目的の場所へまっしぐらに歩を進めた。
そうこうしているうちに、目的地である村の外れにある横穴の真ん前にまでたどり着いた。
火の付いた
「がんばれよ、ケン。お前は自慢の孫じゃ」
「ありがとう、おじいちゃん。うまくやれるかわかんないけど、ベストは尽くすよ」
直後、後ろからベストを尽くす前にテメーの金玉を打ち尽くせとガヤが聞こえてきたが無視することにした。
ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!
穴に向かって空気が勢いよく流れ込む様子に、少しうすら寒さを覚える。
穴へと吹き込まれる風の音があたかも、黄泉の国へと誘いこむ亡者の声に聞こえた。
しばらく横穴を見つめていると背中に視線を感じたため、振り返った。
お年寄りの男性連中が一斉に目で「はよ行けや、ヘタレ」と俺に意思表示していた。
気丈に振る舞わなければ。
そう思って咄嗟に松明を持たされた手とは逆の手でサムズアップをしてみせた。
グッ!
そんな俺の様子に皆は、目を見張っていた。
しばらく押し黙ってアイコンタクトで示し合わせてから、彼らは声と態度で俺に返してくれたのだった。
俺のことを少しは
「「「「「「膝丈ぶらさげて、でっかくイこうぜ! ケ――――ンッ!!」」」」」」
ググググググッ!!!!!!
眩しい笑顔で溌剌とした声を上げながら、公衆の面前で一斉に女握りをかまし始める村のジジイたち。
やっぱり、ちっとも慮ってくれていないじゃないか!(
かくして、人生で最低最悪な送り出しをしてもらった俺は引き攣った顔のまま横穴に足を踏み入れたのだった。
はてさて、どうなることやら……?
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