魄ノ第四章 『家』

 霊感的な環境では恵まれていたのかもしれないが、家庭の状況は笑えるくらい馬鹿らしい状況だった。他人に話すといつも、

『そんなドラマみたいな家庭ほんとにあるんですね』

 とか言われてしまう。

 ギャンブル依存の父は、パチンコ、競馬、競輪、競艇賭け事と名の付くものなら何でもやっていた。当時、携帯電話も無かったので家には返済を求める電話や、ツケ払いにしているスナックのママからの電話などやたらと電話がかかって来ていた。

 中一の冬に母から離婚の話が出た時、辛いとか哀しいとかいう感情より、なんて馬鹿らしい話だと思った。借金は数千万。家が一軒買えそうな金額で、しかも、祖父が亡くなる前に一度、同様の額を返済してやっていたらしいのにも関わらず。


 学年を上がるタイミングで両親は離婚。母が仕事で遅い日もあるため、妹たちの面倒を見ながら、料理、洗濯。

 最初に住んだ家は半年だけの仮住まいだったが、ひどい家だった。

 床は傾き、雨漏りはする。湿気だらけで腐りかけた家。大きな蜘蛛やムカデ、ゲジ。あまりの大きさに驚いて、カレンダーに毎日何が出たか書いていたほどだ。


 今の僕にならわかるけれど、優しい家だった。家としてはもう尽きた寿命に人を抱えることを穏やかに喜んでいた。まるで、息を引き取る老人がいまわの際に日溜まりで懐かしさを覚えるような泡沫の時を共に過ごせた。


 僕の子供時代にとって建物とは重要な存在だった。でも、そうでなければならなかった。それに気付くのは大人になってからだったけれど。

 物も自分の寿命を知っていると思うことがこの仕事をしているとよくある。

 夜に散歩していると見える気がする。それぞれの家がどうやって家族と過ごしてきたのかが。

 

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