魂ノ第参話 『巣作り』

「ありがとうございます! 佐久良さんの言った通りだったんですよ! 凄いねって旦那とも話してたんです」

 お引き渡しして一か月目の訪問。玄関先で言われたことにピンと来なかった。

「私達って、巣作りが必要な夫婦だったんですね」


 あぁ、そうか。思い出した。それは、初めて展示場でお会いした一年も前のことだ。

 学生結婚で結婚してもう六年。二十七歳の若いご夫婦だったので、不妊に悩んでいたなんて気付かなかった。

 もちろん、気付いていたらそんな話はしなかっただろうけれど。


 初夏の頃、その可愛らしいご夫婦は来店した。

「アンケートは、書きたくないんです」

 詳しく話を聞けば、よくあることで以前、住宅展示場に来た際、複数の会社からの電話や訪問の攻撃に参ってしまったということだった。

「あぁ、いいですよ。それでしたら、気に入って頂いてご検討頂けそうなら後でお願いしますね」

 そう応じて展示場を案内した。

 吹き抜けが欲しいという話から、家が大きくなって予算が上がってしまうというお話をした時、子供部屋が一つでもいいと言われ出したところから、そんな話になったと思う。

「私達、子供部屋、一つでいいかと思ってるんです」

「そうですか? でも、けっこういるんですよ。家を建てると子供さんが出来ちゃう人。一人でいいって言われてても大抵、二人目出来ちゃうんですよね。この仕事をしていると面白いなと思うんですが、人間にも色んなタイプがあって、鳥みたいに巣を準備しないとお子さんが出来ない人っているんだと思うんですよ。本能的に安心出来ないからなのかもしれないですけど」

 他愛のないつもりの言葉が、ご夫婦にはどう響いていたのだろう。 


「引っ越して、一週間後に妊娠が分かったんです!」

 笑顔でそう話してくれる奥様に、嬉しくなる。

 結局その後もう一人お子さんが出来て、今は四人家族だ。


 その時はわかっていなかったけれど、きっと、これも僕の役割なのだろう。

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