魄ノ第三章 『視』

 霊感、というか、霊の存在をたまに見るということを認識し始めたのは、中学生の頃だ。

 小学生の頃は、学校の怪談が多い古い校舎だったので、そういった話はなんというか、面白可笑しい日常のイベントだと思っていたし、幽霊を見たという話は瞬く間に、七不思議などと言われるようになるものだから、違和感はなかった。

 中学生になって、同級生の中に、見えるという子が現れた。けれど彼女は、いわゆる不思議ちゃんで周りの子達からも、どこまで本当のことを言っているのか判らないと思われている節があった。修学旅行で、沖縄に行った。一日目のホテルに着いた時、彼女が日本兵の霊が追ってくると走って部屋に逃げ込んで戸を閉めるのを見た時、霊ってそんなものか?と、僕も他人事のように思っていた。


 その夜。

 そもそも、部屋は四人部屋だったが、入った瞬間、左の手前のベッドは暗くて嫌だと思ったにもかかわらず、そのベッドが自分のベッドになってしまった。

 こういう時も思うが、人は本能でそういったことを察知して避けていることも多い。

 寝苦しくて眠れない。隣の子のベッドの枕元から何か音がする。声のように聞こえる。

 ラジオの音のようだったので、その子も眠れていないのかと声をかけようとした。

 声は出ない。それどころか指一つ動かない。

 ラジオの音はどんどんボリュームを上げていく。

 初めて金縛りにあった。

 足元に佇み、こちらを見下ろす人影。目深に被った帽子。肩に銃を引っ掛けている。表情は見えない。ラジオの音のようなものが人の喋り声だと気付く。

 ……日本兵だ。

 どうしようと恐怖が高まった時、担任が見回りで部屋のドアを開け、廊下の光が差した。

 金縛りが解けて息がつける。

 まだ寝て無いのかと問われて、安心した。


 その後、見かける機会が増えた。

 思春期にはよくあるらしいよ。と母に言われ。母も高校生くらいによく見たという話だったので、まぁそんなものかと思った。

 親戚も寛容で、佐久良、見えるんやろ〜?といった感じであったので、社会人になって出逢った幾人かの見える人の境遇に比べると、僕は家庭的には恵まれていただろう。

 多くの見える人は、家族に理解されず辛い思いをしている人も多いから。

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