5.御されし工作
・・・やっぱりいたな、観察者。
「自己紹介痛み入る。拙僧の名は小鳥遊国ひr
《違うわよ!! ほんっと憎たらしいわね!!》
うーん。女神様は残念タイプか。
おそらくは赤髪ツインテ、オッドアイジト目のツンデレ。デカいヘッドフォンをかぶり、水色のダブダブパーカーにストライプのハイソでポテチを箸でつまんで食ってる感じの。
「お褒めにあずかり光栄の至り。して、そなたは?」
《普通にしゃべりなさいよ! 私はこの世界の意志よ!》
「正確に言うと?」
《ほんっとイヤな奴ね・・・そうよ、私はこの世界の意思を自認する者よ》
「まぁ、コンタクト取りたい相手には違いないから細かいところは目を瞑ろう」
《なんであんたが偉そうなのよ》
「で、ぶっちゃけ俺を転生させた目的は?」
《・・・はぁーーーーっ・・・・・・そもそも私があんたと話をしている時点で、無粋の極みなのよ? こうなったら別に話してもいいんだけどね・・・つまらなくなるのよ。メタ的存在が冒頭から出て来てどう面白くなるってのよ? あんたもせっかく異世界に転生してきたってのに台無しだと思わないの?》
「いやでも・・・見知らぬ部屋に放り込まれていた時点で、姿の見えない観察者の存在を確信してアプローチを模索するってのは・・・自然な流れではあると思う」
《痛いところ突くわね・・・しょうがないのよ。この、突然知らない場所にいるって言う演出は絶対に必要なのよ。それがなければ異世界転生って言えないでしょ》
「メタを幾分か抑えた上で、なにもないスペースに女神っぽく出てくるとか」
《あらゆる理由から不可能ね》
「理由?」
《・・・》
「・・・」
《いや? 言わないわよ?》
「え・・・まぁでも、そちらの事情というより、俺のことを考えての対応だったのか。素直にありがたい」
《100%じゃないわよ。こっちの都合も当然あるわ。だけどあんたの今後のモチベーションを考えると、知らない方が断然面白いに決まってるじゃない。それを知りながら台無しにするのが私はイヤなわけ》
「そんなもんかねぇ」
《考えてもみなさい。そうやって、必要最低限の説明だけで色々と手順を踏んでいって、大きな力を手に入れた終盤になってから、私のような別次元の存在に気付いて、様々な形での交渉に乗り出す・・・そうでもないと、私のような必要悪が、無理なくあんたに絡む方法なんてないでしょ?》
「そう言われればそうだとしか思えなくなってきた・・・もう・・・なんで出てきちゃったのよさ・・・」
《うっさいわね。ペナルティも消滅も厭わず聞き続ける奴なんていないだろうし、いたらいたで面白そうと思ってイベント発生条件を埋め込んどいたのよ。実際いたらムカつくだけだったんだけどね。取り消すことだって出来たけどそれもイヤだったのよ》
「無粋だから?」
《そーよ。・・・でも少し安心したわ。そこで「無理に絡まなくてもいい」なんてつまらないこと言う奴じゃなくて》
「言う奴もいるんだ?」
もちろん、言葉通りの「言う奴もいるのか?」という問いではない。
この状況に・・・いや、このメタ存在を認識するまでに至らなくとも、そういった考えを抱く可能性のある者が俺以外にいたのか・・・つまり「俺以外の転生者がいるのか?」の確認を試みているのだ。
《なーに? 探り入れてるつもり? 知りたいことは自分で考えた方がいいわよ。その方が面白いでしょ。で、それでも聞く? 聞いてもきっと想定内の理由よ。その元になる話だって私の個人的な都合だし》
さすがにこの程度の意図は察するようだな。
「いや、いいかな・・・。本当につまらなければガッカリだし、実はとんでもない理由があったらそれはそれで自力で到達したいし」
そして返答内容も俺好みであり、俺の追及を鎮めるに理にかなったものだ。俺に関するデータとその検証が充分整っているのもあるだろうが、それを使いこなすのも馬鹿にはできない。・・・この少女(?)に、少なからず好感を持たされている自分に気付き、その鮮やかな侵攻速度に驚いた。
《ま、それが賢明ね。私が本当のことを話すかは別にしても、楽しめる回答が得られないことは確かだしね》
「ふむ・・・じゃ、代わりにご褒美ください」
《・・・は?》
「いや、この段階で姿の見えない観察者へのアプローチに成功したんだから、報酬はあっても不思議じゃないかなぁって」
なんでもいい。少しこちらも不意を突いて見せたい。
《アプローチって言っても、あんたが考えているアプローチはこういうものじゃないでしょ? それに、私との会話で結構情報仕入れたでしょ。充分な報酬じゃない》
「・・・さすがは世界の意志サン、鋭くていらっしゃる」
《まぁ・・・でも面白いわね》
「え?」
流れを逸脱しすぎない程度に適当なことを言ったつもりで、なんの期待もしてなかったが・・・こうなると話が違ってくる。しかし単純な好転ではない。不意を突くのが目的だった以上、逆に上手く返されてしまったことに変わりはない。あちらに自覚があるかはわからんが、やはり手ごわい相手だ。
だが、なにかもらえるという状況は誤算とはいえラッキーなことに違いない。
「・・・そうでしょ? 面白そうでしょ? ね? ほら、世界の意志サンと出会えた記念みたいな感じで」
《ふーん・・・適当なもの押し付けようとしたけど、そう言われるとこっちもなんか面白ことしないとね。それじゃ、そっち流でやらせてもらおうかしら》
「そっち流?」
モニタの右のスペースに、籐で編んだような黒い箱が2つ中空に現れた。固定された座標でゆっくり回るそれらは大きさが違う・・・なるほど。
《さ、大きい葛籠(つづら)と小さい葛籠どっちにする?》
「大きい方に決まってんじゃん!」
あえて思い浮かべるのも無粋だが、これは「舌切り雀」のパロディだろう。物語においては、小さい葛籠を選んだ爺さんは結果的に宝箱を引いた。このパロディを持ち出した時点でそれはヒントとなり、この場においてもそれを正解とするのが正しい流れとは俺も思う。
だが俺が選ぶのは大きい葛籠だ。古臭い教訓めいた話に精神を隷属され、根拠も不明なまま魅力ある選択肢を手放す・・・それは勿体ないし、なによりつまらない。
《ふーん。一瞬の躊躇なく逆張りね。面白いじゃない。正解よ》
・・・舌切り雀に含められた教訓は「無欲の勝利」として語る傾向にある。だが、実際の所どうなのだろう?
そもそも雀たちは、優しい爺さんに対し、大きい葛籠をチョイスする欲を見せた程度のことで豹変してミミック箱を渡すだろうか? たとえ心象が影響するにしても、内容量が多少増減するくらいじゃないだろうか。
つまり雀は、恩返し対象の爺さんには宝箱の葛籠のみを用意し、報復対象の婆さんにはミミック箱のみを用意した。無欲か否かではない。対象者そのものによって、最初から葛籠の中身は決まっていた。・・・そう考えた方が自然ではないだろうか? この物語の教訓は「無欲の勝利」ではなく「行いは自分に返る」なのだ。
そしてこれを、この場の状況に置き換えて考える。
まず、箱の中身はどちらを選んでも同じだろう。ならば俺が今すべきは、少しでも相手が喜ぶ回答をすることで、中身のクオリティを後出しで向上させること。そう、ここで「少しは影響があったかもしれない」葛籠の大きさの要素が関わってくるのだ。だが、ここでの相手は雀ではない。よって、小さい葛籠を選ぶことが正解とは限らない。
先ほどのやり取りでも感じたとおり、この「世界の意思を自認する者」・・・長いな。略してイッシーは、俺のことを知っている。どこまでデータがあるかはわからんが、おそらくこの俺に納得いくなにかがあったからこそ、わざわざこの世界への転移対象としてチョイスしたはずだ。この時点で印象としてはマイナスではないだろう。ならばベクトルはそのままに、相手を愉快にさせる行動を採ればよい。なんのことはない。普段通りに動けばいいのだ。そして結果、俺は彼女から「面白いじゃない」という言葉を引き出した。
ただ、あくまで少しだ。向上する中身のクオリティも少しだし、俺が出来ることも少し。それでも、元より入手できる予定でなかったとすれば充分な収穫だ。
《それじゃ、選ばなかった方から開けてみようか》
「へ?」
《比較対象がないと当たりの凄さがわからないでしょ?》
「まさしく」
中空を回る葛籠の内、小さい方が青い光を放つ・・・逆光の中わずかに2つに分離するのが確認できた。だが、とくに中身が現れたわけでもなく、光の収束に合わせて葛籠が消える。
《ああ。それは演出ね。アイテム状態の可視化処理もしてなかったわ。まぁ、これが終わったらちゃっちゃと作業進めちゃうから。遅くてもあんたが転生完了したときには出来てるから安心しなさい》
「よくわかんないけど任せた」
《データがあるわ。モニタを見なさい》
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●ゴブリン
コスト:1
初期戦闘力:5
成長度:G
知能:低い
属性:亜人 ゴブリン 無
性向:やや悪 やや混沌
寿命:10年
妊娠期間:3か月
戦闘要員になるまで:1年
●ゴブリン属性
密な社会を構成し、戦闘においても連携力で敵を殲滅する。
Dランクの群れ特性を有し、2匹以上で共闘すると戦闘力が2倍に上昇する。
この群れ特性は他の要素の上昇と重複する。
リーダー、ジェネラル、ロード、キングと進化種がいる。
進化種はステータスに大幅な修正が入る。
進化種には指揮系統に修正が入る。これは重複する。
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《コスト1サービスして属性の説明付きよ》
「サンク○コ。あ、そういえばさっき言ってたっけ。配下モンスターをコストで買うとか・・・」
《コ? ・・・ええ、その内の1つよ。これを100体ね》
「100体?! え、こっち選んでたらこれ100体もらえたの?」
《だからそう言ってんじゃない》
「えー。・・・でも、これがハズレなのね」
《合計でコスト100程度よ? 私がくれてやるって言ってんだから、こんなんで当たりなわけないでしょ》
「ほへー・・・期待しております」
《で、あんたが引いたのはこれよ》
画面いっぱいに表示されていたゴブリンのデータウィンドウが左半分だけに切り替わり、右半分に新しいデータが現れた。
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●最終防衛システム(特殊報酬限定ユニット)
コスト:500000000000
初期戦闘力:2000
成長度:UR
知能:高い~極めて高い
寿命:∞
属性:秘書ゴーレム 無
性向:極善~極悪 極秩序~極混沌
妊娠期間:-
戦闘要員になるまで:-
●秘書ゴーレム属性
・召喚者の意図を汲んだデザインのフレッシュゴーレム。
・召喚者を主人と認識し、彼我の戦闘力に関係なく服従する。
・主人及び主人が権利を付与した者のみに従属する。
・護衛対象を得ると戦闘力が2倍になる。これは重複する。
・拠点の最終防衛及び、護衛対象が拠点内に存在する場合、戦闘力が3倍になる。これは他の上昇要素と重複する。ただし、護衛対象を得ると戦闘力が2倍になる効果は消滅する。
・一定範囲内に護衛対象以外の戦闘可能な味方がいない場合、戦闘力が3倍になる。これは他の上昇要素と重複する。
・全ての状態異常への完全抵抗を持つ。
・主人の魔力を毎時間100吸収する。この数値は変動する。
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「あ、なんかすごい血のたぎるネーミング」
《まぁ、控えめに言ってバケモンね。コストもあんた以上よ》
「こんなすごいのを100体も・・・」
《1体よ》
「でもこれバランス狂わない?」
《100体とか言ってた奴がよく言うわ。問題ないわ》
「うーん」
《ふん。あんたを軽んじて追加チートしてるわけじゃないわ。あくまで今回の報酬として見合っていると判断しただけ。まぁ、いいもんには違いないけど、実際扱ってみたら理想通りじゃないかもしれないわよ》
「あ、わかった。強くなって俺の地位を脅かすとか」
《説明読んだ? あんたに絶対服従よ。ただ、テストが完全じゃないから、私でも把握しきれてないだけ》
「まぁ、いじってみてからかな」
《そういうこと》
・・・少しだけクオリティが上がればなんて思ってたのに、見るからに相当なお宝をもらえてしまったのだが。うーん、ちょっと見返りが怖い気もするな。
《それじゃね。チュートリアルを続けてちょうだい。(ピッ)》
「あ、1つだけ」
《(ピッ)なによ》
「ちょっとだけ帰れたりしないかなぁ? ・・・俺が帰らなければ金魚が2匹餓死すr
《嘘は嫌いよ(ピッ)》
・・・ふむ。最後は怒らせちゃったかな? まぁでも、直接話せたのは良かったな。お土産ももらえたし。
この【最終防衛システム】についてもそうだが・・・今回得られた情報は、メタ存在とコンタクトを取らない限り入手できない類のものだった。さすがにイッシーも核心をベラベラ話すようなザコキャラではなかったが、これまで生きていた環境と違う現状においては、予想を確信に変換できるだけでも有益なものが多いのだ。
やはり、生殺与奪権を握る相手に構わずツッコめば得るものも大きいな。そこを評価されていた節もあるけど・・・
転生と言われた以上、今の俺が在るように「死には次がある」ことを早々にバラしちゃってるんだよね、キミたち。
つまり、これから死をペナルティに提示されても、全て突っぱねることができるわけだ。これは絶対の武器と言っていい。・・・よーし。これからも、死そのものには臆することなく色々踏み込んでいっちゃうよ~。
・・・ところで、今回狙って布石を撒いて、イッシーの能力について確信できたことが2つある。
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