6.賜品の鑑定

 俺の死にも、そしてニュアンス的に転生にも「外注」程度にしか関わっていない印象だが・・・転生というシステムを知っており、死亡した俺を事実こうして利用している。


 生と死を司るとまでは言わないが、充分に途方もない上位存在・・・そんなイッシーを前にし、握られた生殺与奪権の次に気になるのはなにか?


 色々あるかもしれないが、この「なんでもあり」も疑える相手となると、今の俺が一番に気に掛けるとすれば「自分しか知り得ないことを知られているか」になる。その究極といえば、やはり「リアルタイムで思考を読まれるか」ではないだろうか。


 命の次は心。これまでの常識では100%知れるはずもない聖域・・・それすらをも蹂躙できる相手と疑って掛かるべきだ。


 ポーカーフェイスで心理戦を演じているつもりが全て駄々洩れなんて、その時点で格付けは確定すると言っていい。どう足掻いても思考を読まれて対応されるという以前に、そんな間抜けな状態を見通されているという事実に屈伏せざるを得ない。



 ・・・そんなわけで、実は2つの検証を行っていた。



 1.俺の思考をそのまま読むことができるか

 2.ウソは通用するか



 1の結果に2が自動的に付随すると思われがちだが・・・ここは異世界で、イッシーは上位存在。地球の法則や常識で整理しすぎるのも問題だ。・・・事実。俺は付随しないとする結果を導き出した。



 1は・・・NO。



 これを知る布石は、イッシーとの会話が始まってすぐに投じることができた。



≫うーん。女神様は残念タイプか。

≫おそらくはツインテジト目のツンデレ。デカいヘッドフォンをかぶり、水色のダブダブパーカーにストライプのハイソでポテチを箸でつまんで食ってる感じの



 この俺の思考にイッシーは反応しなかった。彼女の性格上、知れば必ず刹那を待たずして激しいツッコミを入れていたはず。


 そしてなにより、さっきから俺の連呼している「イッシー」にも反応がない。思考が読み取れているなら「イッシーってなによ!!」とか絶対ツッコんでくるでしょ、あの子。すでにこちらを遮断しているから? 違うね。イッシーはこちらの監視を続けている・・・とは言い切れないが、少なくともこちらの様子を知る機能を今もって有しているのは間違いない。


 少々脱線するが・・・それも布石を投げて検証済みだ。



≫《ま、それが賢明ね。私が本当のことを話すかは別にしても、楽しめる回答が得られないことは確かだしね。それじゃね。チュートリアルを続けてちょうだい。(ピッ)》

≫「あ、1つだけ」

≫《(ピッ)なによ》



 先ほどのこのやり取り。電子音の後のこちらの問いかけに、再度の電子音の後に返答があった。つまり、あれはこちらを遮断したことで鳴るのではない。あちらのマイクのオンオフに反応して鳴っているのだ。でなければ、電子音の後の俺の問いかけに応じられるはずがない。・・・他に夢中になるものでもないなら、今もって尚、こちらを監視し続けている可能性は充分にある。


 しかし・・・あの(ピッ)というわざとらしい電子音。この部屋の設備を見る限り、明らかに技術的に排除できる機能だ。それがある、つまり俺に聞かせる理由はなんだろうな。・・・と、話を戻すか。



 2は・・・YESだ。



 思考を読まれないのになぜ嘘がわかるのか。それを知れた布石がこれだ。



≫「ちょっとだけ帰れたりしないかなぁ? ・・・俺が帰らなければ金魚が2匹餓死すr

≫《嘘は嫌いよ(ピッ)》



 多少食い気味と言っていい拍子で看破された嘘。


 ・・・俺が飼っていたのは金魚ではなくヒブナだ。金魚の原種で見た目もほぼ同じだが、その希少価値から一般的な金魚と比べて価格も桁が1つか2つ違う。まぁ、価格がどーのというのはともかくとしても、地味魚好きな少数派のアクアリストでもなければ、まず正確に知り様もない嘘だったわけだ。


 単に調査力があるとか、イッシーが結構なアクアリストという可能性を否定する材料はないが・・・重要なのは、それを一瞬で看破したことにある。それこそ、声にして発するより先に、俺が嘘をつくことを知っていたような印象すら抱かせるほどの一瞬。


 ・・・ここから推測できるのは「嘘をついたかついていないかだけが判別できる技術があったのではないか」ということだ。思考を読むよりも一瞬。それこそ視覚で捕らえられるような技術が。


 嘘をついた際の電気反応や体温変化を可視化することなら、地球の技術であっても可能だ。嘘の有無。0か1。


 ただ、どんな嘘をついたのかまで知れるのであれば、その内容を咀嚼する時間、それを捨て置けない好奇心が、否定に至るまでの工程に遅延を与えるのではないだろうか。それがなかったということは・・・



 嘘はバレる。だが、思考までは読めていない。これが俺の導き出した予想だ。



 だが、嘘をつく必要のある相手とは思えない。それに、彼女の性格上おそらく本当に嘘は嫌いなんだろう。つくのもつかれるのも。・・・こういう相手に嘘をつくのは、余程センスと意味のあるものでなければ得策ではない。彼女の印象を悪くするデメリットからのリターンも現状まるで思いつかない。まぁ、こちらもいらぬ戦略を練らなくて済むのは楽だ。


 それに・・・前世を短く終えたらしい俺としては、内容を限定されたとはいえ、次の人生を多少の色のついた形で用意されたことは素直にありがたい。そんな「魔王としての人生」をただ満喫するだけでも充分なのだが、その人生を賭けたクリア条件とも言える「対等以上の立場でメタ存在と対峙する」という目標を、しかも本人に提示されたのだ。義理堅い俺としては無下にするわけにはいかない。


 そう考えたら、思考を読まれないという点は助かった。全てがイッシーに筒抜けであれば、彼女の不意を狙うのは難しくなる。対策はなくもないが・・・条件が厳しすぎるものしか現状浮かばない。当然、戦略の幅は大きく制限されていたところだ。


 しかし、思考を読み取られないのであれば、それはそれで考えを悟られないように動く必要があるということ。情報購入では真意を悟られないような質問を心がけるべきだろうな。とくに、段階を飛ばしてなにか核心めいたことに気付いたとしても悟られてはならない。追及したところで、必ずしも回答があるわけではない上に「回答を得られないにしても、その質問をした時点でアウト」という判断を下される可能性は充分にある。


 次があると知った以上、最悪殺されるにしても恐れることはない。だが、不当に難易度が上がるのは気に入らない。既に俺はこの「ゲーム」を攻略するつもりでいるものの、あまりに不条理だったりセンスがないものなら躊躇なくボイコットする。管理側がそうせざるを得ない状況を作らないよう、こちらからも働きかける・・・いや、下手な働きかけ方をしないことも、新たな人生を楽しむ秘訣の一つだろう。


 ・・・これはあくまで、思考を読まれているという最悪のシチュエーションを回避できたからこそ課せられる対応だ。難しいものではあるが・・・希望があるかないかで言えば、あるのだ。

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