第74話 ノルン地方の平定
ハーマルの西の隣町であるイエビクに向かったユウリ達は、海賊船上から状況確認をして、街の魔物を排除していく。
親衛隊はとても良く訓練されていて、中、低級クラスの魔族と魔物は相手にならなかった。
親衛隊正規隊員8人・見習い隊員36人・フェアリークレスト6人の合計50人の精鋭達の前に、次々とノルン地方の街は開放されていった。
英雄とワルキューレと神獣とミスリル製の武器を装備した精鋭達の前に、魔力供給が絶たれた魔族や魔物は敵では無かった。
一部の街で人族が征服され、既に獣人が王と成っていた街もあった。
獣人が家で暮らし、人族が奴隷として使役されていたのだ。
ユウリはまず、街周辺の『災厄の偶像』を探し出し破壊する。
すると獣人族は負のエネルギーが薄れて行き、攻撃的な心を徐々に無くしていった。
「よし、此処はこのまま暫く放置して、先に征服されてない街を助けに行こうか。この街の人族への攻撃は現在収束してるから、今も魔物に襲われてる街を優先して助けよう」
「「「はい」」」
征服された街の王や獣人の魔力供給を絶つと、彼らは徐々に力を失っていきます。
「獣人は『災厄の偶像』の影響を受けて凶暴化したのだから。沈静化してから、なるべく倒さずに拘留する事にしよう」
「「「はい」」」
獣人の王は、最後は簡単にユウリ達に囚われてしまった。
ユウリは捕まえた獣人達をとりあえず犯罪奴隷に登録する。
「反逆心が無いと判断できた者は奴隷から開放してあげよう。そして各地の氾濫が治まったら全員解放してもいいかな」
ナカハラ宰相が進言する。
「ユウリ様、この沢山の獣人達を拘束して置くだけでは、財政を
「うん、今迄ノルマンド公爵領には軍隊が無かったから、それも良いかも知れないね」
「ユウリ様が今迄軍隊を作らなかったのは、民を戦争に駆り出して死者を出したく無かった事は察しておりますが、専守防衛の為の期間限定配備だと納得してください」
「分かったよ、宰相の案を採用しよう。ただし、しかっりした指揮系統を作らないといけないね」
「はい、分かりました」
ユウリ達はノルン地方の街全てから魔物を排除した。
開放した街にはノルマンド公爵配下の宮廷貴族を代官として置き、街の復興と治安に従事させた。
「元々居た町長や役員と協力して街を復興しておくれ、緊急時には無線で連絡するように。そして『災厄の偶像』も見つけ次第破壊してください。連絡してくれれば親衛隊を派遣します」
発見が遅れた『災厄の偶像』も魔力供給がされず力を失ったようで、魔物の氾濫と獣人属の凶暴化は、やがて収束しました。
「あとは、街外のゾンビ、バンパイアやワーウルフの眷属の生き残りを討伐していこう」
トロルヘイムの魔力源泉の支配が及ぶ地域(ノルン地方と妖精の森)は10日ほどで反乱が鎮圧されました。
氷宮殿に於いて、
「ノルン地方の魔力源泉は、ユウリが居なくなった後も誰かが支配してるようだ」
ルシファーが言った。
「支配者を先に倒せ。そうでないと魔力源泉に辿り着くことは難しかろう」
「ははっ」
「たぶんユウリの長男チャールズ・ノルマンドあたりだろう」
「はい」
「ハーマル城に密偵を送り込んで探らせろ。あわよくば暗殺してしまえ」
「ははっ」
〇 ▼ 〇
ハーマル城の執務室にノルマンド公爵領の主だったメンバーが集まっていました。
と言っても、男の大臣以外は全員ユウリお兄様の家族と言えるでしょう。
この城はホクオー国がノルン地方攻略の為に建てた城で、とても大きく城下も広いのです。
湖に面した天然の要害で、ユウリお兄様が領主に成ってからはアストリアで1番経済の発展した街と言われてます。
「ユウリ、アストリア王国のヘイミル王にノルン地方鎮圧の報告を致しましょう」
「ユキ……実は、今回の魔物氾濫は全世界同時進行だった様なんだ。まず領地の治安回復を優先しなければと思い黙っていたのだけれど、アストリアも含めて殆どの国が、魔族に制圧されてるみたいなんだ」
「まぁ、ヘイミル王は無事なのでしょうか?」
「分からない。分かってる事は既にアストリア王国が、魔族に支配されてると言う事だけなんだ」
「何故そんなに早く支配されてしまったのでしょうか? 魔術師団も王国軍も簡単に負ける筈がないのに……」
「おそらく、魔力源泉を魔族が支配してしまったのだろう。忘れ去られた何処かのダンジョンの奥深くの、主が居なかった魔力源泉を攻略したのだろう。その力で人族への魔力供給を絶ち、魔法が使えなくなった所を攻めたのだと思うよ。だから、トロルヘイムの魔力源泉も魔族に攻略されそうだったんだと思う」
「ノルン地方の魔力源泉の主はユウリで、妖精の森の主はフレイヤ様ですからね。他にも魔力源泉があったのでしょうが、誰も支配しないまま忘れ去られてしまっていたのですね」
「魔族は長生きだからね。人族が忘れ去ってしまった魔力源泉を覚えてる魔族が生き残っていたのだろう」
「魔族が支配してる地域に侵入するのは難しいでしょうね、我々も魔力供給が出来ないでしょうから」
「そうだね……まず第一に源泉の主になった魔族を倒すか、源泉を支配する必要があるだろうね」
「はい」
「とりあえず、チヨに指揮させて親衛隊に情報を集めさせよう。チヨは情報収集のプロだからね」
「そうですね」
「モチヅキ親衛隊長は部下に無理をさせない様にしておくれ、魔力切れしない様に魔道具を持って行く事、危険な時は緊急転移リングを使う事を徹底してください」
「はい、畏まりました」
「その間に、俺達は出来るだけ魔道具と魔石を集めて海賊船に積み込んでおこう。魔力切れを起こさない様にね」
「海賊船でアストリア王国の奪還に向かうのですね」
「うん、空からなら比較的安全に敵地に近づけると思うよ」
「そうですね」
「チャールズ、各街に物見の塔を建てて、緊急事態の時に狼煙をあげる様に手配しておくれ」
「はい」
「宰相は、各町の財政状況を確認して、衣食住など最低限の生活を確保してやって下さい」
「はい」
「俺の個人財産を岩窟城の金庫に入れてあるから、全部使ってもいいよ」
「全部だと、国々が買えてしまいますよ」
「そんなにあったんだね、使わないと意味が無いからバンバンジャリジャリ出していいよ」
「ジャンジャンバリバリですよね?」
「そうとも言うね。 魔族が平和裏に街を開放してくれるなら買ってしまっても良いよ」
「魔族が約束を守るとは思えませんから、それは無いですが。降伏してノルマンド家の支配下に入るのならば、私財を投入しても良いと思います」
「民がより幸せに成るのだったらそれでも良いかな。氾濫が収束するまで、再建に関しては宰相に一任するから宜しくお願いします」
「はい、わかりました。お任せ下さい」
「ナカハラ宰相、やる気満々に見えるね」
「はい。大きな仕事で、成果が目に見える事なので、やりがいを感じてます」
「うん。困った時は遠慮なく相談してください」
「はい」
惜しみなく財政投入して、獣人の治安維持軍に復興の手助けもして貰ったので、各町は徐々に復興を遂げる事になります。
数日後、
「ご主人様、アストリア国を支配してる魔力源泉はアルプのダンジョン内にあるようです」
モチヅキ親衛隊長が報告した。
「険しい山の中ですね」
ユキが呟いた。
「ご主人様、魔力源泉の支配者はベリトと言う上級魔族です」
「ユウリ、ベリトは赤い衣服と王冠を身につけ、赤い馬にまたがった兵士の姿をしていました」
「ユキは見た事があるんだね?」
「戦った事があるのです」
「チヨ、ベリトが何処に居るか分かるのかい?」
「アストリアの王宮で玉座に座ってる事が多いようです」
「よし、光属性魔法で攻撃できる精鋭部隊を組織して、直接玉座前に【転移】して雌雄を決しよう!」
「ご主人様、アストリアの王宮には物理と魔法の【闇魔法障壁】が張られています。直接玉座前に【転移】する事は出来ません」
「それでは王宮上空の【闇魔法障壁】の上に、海賊船ごと【転移門】で移動してから降下しよう」
「はい」
「ユウリお兄様、私は光魔法がレベル10になりました。【サンクチュアリ】と言う魔法を覚えたのです。私も攻撃に加えてください」
シャルロッテが上申した。
「ユウリ、【サンクチュアリ】は光の聖剣を降りそそぎ、魔を滅する光系統の最高位魔法です!」
ユキが教えてくれた。
「ふ~ん、俺の光属性魔法には入って無いけど、ユキは持ってるの?」
「いいえ、持ってないです。ロッテにベリトを倒させましょう」
「エエーッ! 私ですか~?」
「いいですかロッテ、魔族は光属性魔法に弱いのです。最高位魔法の【サンクチュアリ】の前には、いかなる魔族も耐える事が出来ないでしょう」
「俺達も光系統の攻撃魔法を一緒に撃つからね」
「……はい」
「ロッテ、最高位魔法の【サンクチュアリ】を使うときは、身元が知れないように忘れずに顔を隠すのですよ」
「はい」
「チヨ、親衛隊員全員を海賊船に乗船させて下さい」
「はい」
「フェアリークレストも乗船します」
「うん、お願いします」
「オゥちゃん(オログ=ハイ)は、正面突破で正門を破壊して突入してください」
「分かっただぁ」
「パッフィ(ファフニール)は、裏側から火炎弾で壁を破壊して突入してください」
「うん、分かった」
「明日、日の出と共に攻め込みましょう」
「「「はい」」」
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