第73話 ハーマル掃討作戦
ユウリはモチヅキ親衛隊長とアンナ副官を連れてハーマル城の執務室を出た。
「クーシー族の子供達はもう十分に戦えます。こういう時の為に訓練を怠りませんでした」
と、アンナがユウリに上申した。
「それじゃあ、見習いとして親衛隊と一緒に行動させようね」
「はい」
ユウリはトロルヘイムの領主邸に転移して、クーシー族の子供達36人を集めた。クーシー族は多産だったのだ。
ユウリの子供達の殆どは、母親と一緒にトロルヘイム領主邸で暮していた。
「これから、ハーマルの街に侵入してる魔物を撃退しに行くのだが、君達はこれより親衛隊見習いとして出撃する事に成った」
「「「はいっ!」」」
「魔族は魔力源泉からマナを回復出来ないから、上級魔族でも持久戦に持ち込めば必ず勝てるぞ!」
「「「はいっ!」」」
「ハーマル城武器庫に【転移門】テレポゲートオープン!」
ブゥウウウウウンッ!
「アンナ、この子達に得意の武器を配っておくれ」
「はい」
武器庫には、討伐で魔物からドロップした武器や、ユウリが作製して魔法付与したミスリル製の武器が保管してあった。
「みんな実践では軽めの武器を使うんだよ、武器に振り回されない様にね」
「「「はいっ!」」」
子供達はチャールズやシャルロッテより2、3歳年下だったが、人族より成長が早かった。
この世界では、通常の犬人族の成人は10歳だと言う。子供達はハーフだが、それでも成長が早かった様で、シャルロッテより大人に見えた。
「鎧や盾など防御装備が必要な者は、遠慮なく使うように」
「ご主人様、この子達には忍者教育を施してます。防御装備は不要です」
モチヅキ親衛隊長が言った。
「そうだったんだ。チヨから見て、この子達の成長具合はどうなの?」
「十分実戦で役立つ筈です。ご主人様のパッシブスキルも少なからず受け継いでます」
「それは凄いね」
「羨ましい事です。数年で人族の能力の限界を超える事でしょう」
「チヨの子供はどうなの?」
「まだ8歳の女の子ですので体が小さく、実戦には早いと思います」
「チヨのスキルは受け継いでるの?」
「はい、受け継いでます。それに、ご主人様のスキルも多少受け継いでます」
「それは良かった」
話しをしてる間に全員が武器を選び終わった。
「よし、ノルマンド親衛隊、出撃!」
「「「オゥ」」」
ユウリ達は城の正面から堂々と出撃した。
街にはゾンビが溢れている。
「ゾンビの弱点は頭だ! 頭蓋骨をカチ割ってしまえ!」
モチヅキ親衛隊長が言った。
「「「はいっ!」」」
「噛まれた時はスグに報告しまさい。早く浄化すればゾンビ化しないで助かりますから」
「「「はいっ!」」」
ユウリは先頭に立って短弓を構え、ゾンビの頭を【百発百中】【自動回収】で撃ち抜いていく。
その横を通り抜けて見習い36人を含む親衛隊が切り込んでいった。
順調に討伐して進み中央広場に来ると、ユウリは噴水の一段高く成ってる石像の横に昇った。
ユウリは長弓に持ち替えて、中央広場から放射状に伸びてる道路上のゾンビを次々と仕留めていく。
親衛隊の活躍もあり、ドンドン排除ができていく。
ユウリは見える限りのゾンビを100メートル200メートル先まで、一発で仕留めた。
「見える範囲のゾンビは仕留めたから、脇道のゾンビを見える所に誘い出しておくれ」
「「「はいっ!」」」
「お兄ちゃん、私達は城壁沿いにゾンビを排除したよ」
エリナから無線ブローチで連絡が入った。
「ありがとうエリナ。俺は中央広場の噴水の上に居るよ」
「まぁ、滑って落ちないでね」
「変なフラグを立てないでよ!」
「えへへへっ」
「此処から見える限りのゾンビは討伐出来たから、脇道のゾンビに気を付けてね。今、親衛隊を脇道に行かせた所なんだよ」
「オッケー。私達も脇道に行くね~」
「頼んだよ」
ユウリは滑って転ばない様に【浮遊】スキルを使って噴水の外に下りた。
「そうだ海賊船からなら、もっと良く見渡せるかもね。海賊船に【転移】!」
シュィイイイイインッ!
「海賊船出撃ー! 全速前進ヨーソロー」
ユウリは海賊船ごと【転移門】を潜ってハーマル城上空に出現した。
そして身を乗り出して地上を眺める。
「うわ~、高いな~。キュ~ッとチジミ上がっちゃうよ~! 怖いけど我慢して弓を撃たなきゃね」
ユウリは残ってるゾンビを見付けては、長弓で撃ち抜いていく。
ユウリと親衛隊は、夕方まで城下を警戒して見回りを続けた。
日が暮れて皆は城に戻った。
広い謁見の間に、掃討作戦に従事していた親衛隊やフェアリークレストが集合する。
執務室に入るには人数が多過ぎたからだ。
「皆さんご苦労様でした。お陰様で城下のゾンビは掃討出来たようです」
チャールズが公爵として、皆に
「閣下、城の庭で炊き出しをして、民に食事を提供しましょう」
ナカハラ宰相が提案した。
「ふむ、それは良い。よきに計らってくれ」
「御意」
「俺達も手伝って、一緒に夕食を取ろうよ」
「ユウリ様、その前に各部署からの報告を聞きましょう」
「そうだね、ゴメン」
「いいえ」
「それではユキ様から、お願いします」
「城下のゾンビはすべて掃討できたと思いますが、まだ警戒を怠らない方が良いでしょう」
「有難う御座います。次にモチヅキ親衛隊長、報告をお願いします」
「はい。 親衛隊は城下の家々を確認して回りました。撃ち漏らしたゾンビを幾らか見付けて掃討しましたが、民の被害はかなり深刻です」
「そうですか、有難う御座いました。他に何か報告は有りますか?」
「「「……」」」
「連絡事項や相談はありませんか?」
「はい。明日からは海賊船で出撃して、近い街から順次掃討して行こうと思います。最初に空から状況を確認した方が、行動し易いでしょうから」
と、ユウリが提案した。
「フェアリークレストも親衛隊と一緒に乗船させて下さい」
ユキが申し出る。
「そうだね、一緒に行こう」
「他に何かありますか?……無いようでしたら、炊き出しの準備をしましょう」
「「「はい」」」
次の日ユウリ達は、東隣の街エルバームに海賊船で向かった。
上空から様子を確認して、街に侵入してる魔物とゾンビを長弓で射抜いていく。
「街はまだ、魔物に占領されてないみたいだから、昨日と同じ様に掃討しよう」
ユウリは攻撃の手を休めずに、皆に声を掛けた。
「「「はい」」」
「フェアリークレストと親衛隊は、降下して掃討を始めましょう」
ユキが皆に声を掛けた。
「「「はい」」」
ユウリは海賊船を低空飛行させて、味方に当らない様に弓を撃ち続けた。
そして1発も外す事無く、魔物を倒し続ける。
ユウリは海賊船を街の中央上空に止めて、そこから300メートル離れた魔物ですら仕留める事が出来た。
「まるで、源為朝みたいだ!」と自画自賛した。
ユウリは、ある程度掃討の目処が立った所で、レーダーマップで『災厄の偶像』を探す。
「あった、街の四方を囲むように森の中に設置してある!」
ユウリは近くに誰も居ない事を確認して、船上から【流星矢】をそれぞれに打ち込んだ。
ズッドォオオオオオンッ! ドッカァアアアアアンッ!
『災厄の偶像』は4つ全て、見事に粉々に砕け散った。
暫くして魔物の掃討を終えたフェアリークレストと親衛隊が、海賊船に戻って来る。
「ご苦労様、早かったね。これからイエビクの街に向かおうと思うけど、皆は大丈夫かな?」
「「「はい」」」
「
「いませ~ん」
エリナが代表して答えた。
「よし。イエビクに向かって全速前進ヨーソロー!」
「「「……」」」
「お兄ちゃん、『ヨーソロー』ってな~に?」
「『ヨーソロー』は船上で使う言葉で、前進せよと言う意味だった筈だよ。『よろしくそうろう』を略した日本語だったと思うよ」
「ふ~ん、きっと皆は初めて聞いたんじゃない」
「そうかもねぇ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます