第72話 魔族侵攻

 騒ぎを聞いた警察官が2人、自転車でやって来ました。

 魔族を捕まえた後なので、皆は変身を解いています。



「どうしましたか? 喧嘩ですか?」

 警察官は魔族を見て怪訝な顔をしています。


「変な格好をしてますね、コスプレでしょうか?」


「さぁ……」



「被害はありませんか?」


「庭と家の中を荒らされてますが、被害は……まだ分かりません」


「確認してみますね」



 警察官達は【異世界転移門】の魔道術式に近づいて行きます。


 ザザザザザッ!

 そしてなんと、靴で術式を荒らして消し始めました。



「なっ、何をするんですか!」


 又、突然【危険感知】の警告音が鳴り響きます。


 ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ……、



「上です!」


 更に、黒いコウモリの翼を広げた別の魔族がそこに居ました。



「ファイヤーランスッ!」


 ドドドドドォオオオオオンッ!


 新たな魔族は火属性魔法の【火槍】ファイヤーランスを、魔道術式目掛けて打ち込んできました。

 ユウリお兄様がマジックシールドを張り、ユキお姉様が剣を抜いて向かって行きます。


 魔族は、又やはり、身をひるがえして逃げ出しました。

 2人は再び変身して顔を隠し、【飛行】スキルで魔族を追い駆けます。

 そして、警察官達は長い牙を剥き出して私達に襲い掛かってきました。



「バンパイアの眷属です!」


 シャッリィイイインッ! ブッシャアアアアアッ!


 モチヅキ親衛隊長が剣を抜いて、2人の警察官の首を鮮やかに切り落としました。

 警察官達は眷属に成ったばかりだったのでしょう、そのまま死体が残っています。



 暫くして、ユウリお兄様とユキお姉様が、再び中級魔族を捕まえて帰って来ました。


「もう勘弁してほしいね」


「魔道術式を狙うって事は、異世界に帰らせたく無い事情が有るのだろう」

 と、オーディン様が言いました。


「そうですね」



「ユウリ、マナはまだ大丈夫か?」


「はい御義父様おとうさま。追い懸けっこで2度も空を飛んだので、かなりマナを使いましたが、まだ大丈夫です」


「まあ、魔力の多い者が沢山居るから心配無いだろうがな」


「ただ魔道術式は又書かないといけませんね」


「ユウリ、トロルヘイムの魔力源泉にお主だけ【異世界転移】して、源泉の力で【異世界転移門】を開いて此処に繋ぐのじゃ、ワシらはそのゲートに入ればよい」


「なんだ! そういう方法があったのですね」



 ユウリお兄様は残りのマナが心配なので、インベントリーからミョルニルを取り出しました。ミョルニルは魔道具としてMP1000のマナが蓄えられているのです。


「トロルヘイムの魔力源泉に【異世界転移】!」


 シュィイイイイインッ!



「おっ!ユウリめ、【時空魔法】がレベルアップしておるぞ」


「まぁ」


「魔力源泉の主はスキルが無くても、源泉に【転移】出来る。しかし今のユウリの【異世界転移】は、本人のスキルだったのじゃ」


「そうなのですね!」




 間も無く、色鮮やかなゲートが異世界研修所日本本部の庭に出現しました。そこからユウリお兄様が顔だけ出します。


「さあ、皆さん入ってください。チヨ、魔族2人も連れて来てね」


「はい、畏まりました。警察官の死体はどうしますか?」


「それは、置いておこう。家族が居るだろうから……所長、あとの事をお願いできますか?」


「うん、何とかするよ。それより、向こうの事が心配だから早く帰った方がいいよ」


「はい、そうですね」


 私達はゾロゾロとゲートを潜りました。




 ゲートを潜った瞬間から、【気配感知】がビンビンと反応します。


「どうやら魔族達がこのダンジョンを攻略中みたいだね。ミスリルの武器で心臓を突き刺すか、首を切り落とすと魔族を倒す事が出来る筈だよ」



 ユウリお兄様の仲間の殆どは、ユウリお兄様が作ったミスリル製の武器を持っていましたが、カールと私はまだ持ってませんでした。


「これは2人の為に作っておいたミスリル製の刀なんだ、魔族相手に使う様に」


「「はい、有難う御座います」」


 2本の小ぶりな日本刀は握りが青色と赤色で、カールが青を取り、私が赤を取りました。

 鑑定すると、赤が『聖剣左文字』青が『聖剣右文字』と書いてあります。


「稽古通りに振るう事、余計な事は考えぬ事」

 信綱師匠が私達2人に短く心得を言いました。




「アンナ、俺だ。 領内の現状を報告してくれ」


 ユウリお兄様は無線ブローチで、クーシー族リーダーのアンナに連絡しました。

 アンナは親衛隊の副官でもあります。



「ユウリ様、ハーマル城下ではゾンビが人族を襲っています。街の外には魔物が沢山居ます。ゾンビと戦っていますが、倒すより増える方が速いのです」


「ゾンビは接触しなければ感染しないから、家の外に出ない様に教えるんだ。空を飛び、ゾンビの届かない空中から城下の人達に、声を掛けて回っておくれ」


「畏まりました」



「俺達は、とりあえずダンジョン内の魔族を倒しましょう」


「「はい」」



「ユウリ、まず魔力源泉からの魔族への魔力供給を止めるのだ」

 と、オーディン様が言いました。


「はい、御義父様おとうさま。 支配地域内に居る全ての敵対魔族への魔力供給を遮断!」

 ユウリお兄様は魔力源泉に両手を当てて、そう言いました。


 ピッキィイイイイインッ!


『魔力源泉支配地域内に居る敵対魔族への魔力供給を停止しました』



 ユウリお兄様、ユキお姉様、オーディン様、信綱師匠、オログ=ハイ様、ファフニール様、モチヅキ親衛隊長は、遭遇する魔族達を次々と切り倒して進んでいきます。

 一騎当千とは、正にこの事を言うのだと思いました。

 皆一太刀で魔族の首を切り落としていくのです。


 私とカールも始めての実戦が対魔族と成りましたが、稽古通りに剣を振るうと、容易く魔族を倒す事が出来ました。



 ユキお姉様が私に声を掛けてきます。

「ロッテ、【幻麗流紅一閃】を見せます。私の動きを覚えなさい」


「はい」



 カールはユウリお兄様の後を追い、その技を真似ている様です。

 その剣は何処から敵が来ても一瞬で、首を切り落としていきます。

 まったく無駄な動きがありません。


 魔族達はダンジョンを守る魔物と戦い疲労していて、しかも魔力が尽きたのでしょう。

 私達は2、3時間でダンジョン内の魔族を殲滅する事が出来ました。


 そして、私達はダンジョンの外に出ます。



「ロッテ、レベルが凄い上がったよ!」


 カールが私に嬉しそうに言いました。




「領地内の敵性生物をレーダーマップでチェックします」


 ユウリお兄様は、スワイプしてレーダーマップを広範囲に広げたようです。


「領地内の殆どの街が敵性生物に襲われています。近い町から救援に向かいましょう」


「「「オオゥ」」」



 オログ=ハイ様は巨人に変身して、森のトロル達に号令してトロルヘイムに向かいました。

 ファフニール様はドラゴンに変身して、オダルスネの街に向かいます。



「俺達はハーマル城に転移して、作戦本部をそこに置きましょう。【転移門】テレポゲートオープン!」


 ブゥウウウウウンッ!



「カール、玉座に座り宰相や大臣の意見を聞いて、配下の者達に命令をしなさい。領主はどっしりと構えて無闇に動いてはなりません」

 ユキお姉様が言いました。


「はい」



「ルミちゃんお疲れ様でした。ルミちゃんとエリナは自由にしてください。俺と親衛隊は城下の治安を回復に行きます」


 ユウリお兄様はストーマーに変身して、親衛隊と出撃します。




「私達もフェアリークレストに変身して出撃しましょう」

 ユキお姉様が、ルミナお姉様とエリナお姉様と私に言いました。


「「「はい」」」



「「「「フォース・クレセント・ライトニング!」」」」


 眩しい光が4人の後ろから溢れ広がり、変身したフェアリークレストが現われます。


「月の天使!クレストレッド!」

「月の天使!クレストオレンジ!」

「月の天使!クレストピンク!」

「月の天使!クレストパープル!」


「「「「私達、フェアリークレスト! 闇の力の魔物たちよ! さっさとお宅に帰りなさい!

 ユキ!エリ!ルナ!ロッテ! クレストと「メッ」しちゃうよ~!」」」」


 私達4人は目配せして、コミケでのセリフとポーズを決めました。



 「待って下さい、私達も一緒に戦います!」

 ナホコお姉様(神獣のナオちゃん)とラナお姉様(神獣のグラーニ)が参加を申し出ました。


「じゃ~あ~、2人にも衣装とマスクを上げるね~」


「「はい、有難う御座います」」



「それじゃ~、決めセリフは~。

『私達、フェアリークレスト! 闇の力の魔物たちよ! さっさとお宅に帰りなさい!

 クレストと「メッ」しちゃうよ~!』でいきましょ~!」


「「「「「はい」」」」」



「いいな~。僕も変身して戦いたいな~」


 カールが羨ましそうに呟いてました。

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