第四章 ワルキューレの子供

第67話 シャルロッテ公爵令嬢

「魔法は10歳に成ってからです」


 ユキお母様に言われてました。あっ、お母様と言ってはいけません、ユキお姉様なのです。

 私よりちょっと年上のお姉様って感じに見えますが、今年から一緒に魔法学院に入学しました。

 本当は大人なのです。でも秘密なのです。絶対に誰にも言ってはいけないのです。


 屋敷の私室をでたら、決して甘えてはいけません。私室の中だけ甘えてもいいのです。部屋のなかでは、しがみ付いて離れません。お外にも出ません、出させません。

 お母様エキスを120パーセント充填するのです。




 魔法学院に入学して、やっと魔法を使う許可がおりました。

 でも「授業以外では魔法を使ってはいけません」と、ユキお姉様に言われてます。



 昨日入学式を終えて、いよいよ今日から勉強が始まります。

 と思ったら、最初はホームルームでした。


「お早う御座います」


「「「おはようございま~す」」」



「私は担任のマシュウ・アイバーです。宜しくお願いします」


「「「よろしくおねがいしま~す」」」



「それでは私が1人ずつ名前を呼びますので、その場で立って皆さんに顔を見せて下さい」


「「「は~い」」」



「アストリア国、アレクシス第5王子」

「はい」


「アストリア国、カタリナ第4王女」

「はい」


「バロルト国、マルグレーテ第2王女」

「はい」


「スラベニア国、マリア第3王女」

「はい」


「東ホクオー国、エストレア第5王女」

「はい」


「アストリア国、チャールズ・ノルマンド公爵」

「はい」


「アストリア国、シャルロッテ・ノルマンド公爵令嬢」

「はい」


 …………。



 長い時間を掛けて、全員が紹介されました。


「皆さんは2年間基礎課程を一緒に学んで頂きます。仲良くしてくださいね」


「「「は~い」」」



 リンゴンカンコーン、リンゴンカンコーン♪


「それでは、15分の休憩時間になります。次の時間からは基礎課程の授業が始まります」




 午前中は国語、算数と授業が続きました。


 周りを見ていて気付いた事は、生徒のほとんどは、それぞれの国の王子王女と、その取り巻きや側使えだと言う事です。たぶん、そう言うクラスなのでしょう。


 私とチャールズはアストリアの王子王女とは、幼い頃から仲良しです。

 他の国の王子王女は、王都アンディーヌ内の離宮に住んでいて、内情は人質だと聞かされてます。

 催し物やパーティが開かれた時に、何度かあった事はあります。

 けれど、あえて会わない様にされてました。



「あまり親しくしてはいけません、敵対した時に悲しむ事になりますから」

 と、王宮の教育係に言われました。


 養父様(ヘイミル国王)やユウリお父様の時代には戦争があったらしいです。


「私達は争わない様に致しましょう」


「それは、よろしいですね」




「カール、ロッテ、一緒にランチに行こう」


 アストリア国のアレクシス第5王子とカタリナ第4王女に声を掛けられました。

 カールは兄チャールズの愛称で、ロッテは私の愛称です。


「はい。レックス、ケイティ」


 レックスとケイティはアレクシスとカタリナの愛称です。

 これらの愛称は、ごく近しい者の間だけで使われています。


 2人供べックヒルド王妃の子供ではなく、第2夫人と第3夫人の子供です。

 そんな事情は私達には関係なく、幼い頃から普通に遊び友達でした。



 王立学院の敷地はとても広く、1つの街の様です。

 食堂もとっても広く、貴族と平民は部屋が違います。


 私達が貴族専用の部屋に入ると平民の側仕えは壁際に控えて待機します。


「ユキお姉様、どうぞ一緒に食べて下さい」


「お嬢様、御気になさらずお食べ下さい」


「でも……」

 ユキ(ブリュンヒルデ)の目が一瞬キッときつくなった。


「はい」

 ユキがニッコリ微笑んだ。



 しばらくして、それぞれの側仕えが料理を運んでテーブルを整えます。


「それでは、いただきましょう」

 レックスが声をかけて、私達が唱和しました。


「「「いただきましょう」」」




 昼休みは、2時間あります。食事は暖かい出来立てを食べる為、たっぷり1時間掛かります。

 それから、貴族用の談話室に移り、歓談を致します。

 この部屋には平民も入れますが、一緒のテーブルに着く事は出来ません。

 学院内は基本的な社会ルールを重視しています。卒業後の社会で間違いを起こさない為です。


 談話室にはソファーもあって、そこで午睡ひるねをする者もいます。




 午後からは魔法の授業が始まりました。

 魔法の授業もアイバー先生が教えてくれます。

 クラス全員は、広い土のグランドに連れて行かれました。



「まずは【生活魔法】から勉強します。効率よく的確な魔法を発動しましょう」


【生活魔法】の【着火】から始まりました。

【着火】は生活に欠かせない魔法です。

 ランプ、料理、暖炉、湯浴み等に必要になります。


 実は【生活魔法】は入学前に、王宮の教育係から教わりました。王子王女達も一緒です。

 王族が始めての授業で慌てないように配慮された様でした。



 私は自分の前にある薪に、右手の平を向けて詠唱します。


「ふ~……火の精霊よ、この薪に生活の為の種火を与えたまえ【着火】!」


 ボワッ!


「出来ました」


「良かったね」

 隣で同じく【着火】に成功していたケイティが言った。



 平民の子供や側使えは、生活で実際に使ってるのでしょう。皆成功してました。


「はい、皆さん大丈夫な様ですね。それでは続けて次の【生活魔法】を行いましょう」






 午後3時まで生活魔法の勉強をして、その日の授業が終わりました。


 上級貴族は転移専用部屋から帰ります。登校する時も同じです。

【転移】の為の魔道具が設置されていて、クリスタルに触れて詠唱すれば移動できます。

 ただし、魔道具に登録されてない場所には【転移】できません。

 これは、上級貴族の子息が事件に巻き込まれないように配慮されたものだそうです。


 転移専用部屋の前には広い控え室があり、グループ毎に順番を待ちます。

 クリスタルのある部屋には、一緒に転移する者だけが入るのです。


「それではお先に、ごきげんよう」


「「「ごきげんよう」」」



 レックス、ケイティは後宮に【転移】して、私とカールは公爵邸に【転移】しました。

 私達はそれぞれの自室に戻ると、急いで学院の制服から着替えさせて貰います。


 そして、家族用の私室に急ぎます。


「お嬢様、はしたないですよ!」


 女官長に注意されますが、しょうがありません。



 ガチャリッ。


 ドアを開けると、カールがユキお母様に抱き付いてました。


「まぁ、又負けましたわ!……私の番ですわ、交代してください」


 私はカールを引っ張りますが離れません。

 仕方なく開いてる側から抱き付きますが、カールの腕が邪魔です。

 その腕を引き剥がそうとしますが、強くて剥がれませんでした。



「カール交代してください、お父様に甘えてください」


「お父様は妹達と遊んでるよ」


 ちらと見ると、お父様は妹達と絵本を読んでいます。



「カールも一緒に絵本を読んでください」


「え~っ、絵本かぁ!」



 カールは私の圧力に負けて、しぶしぶお父様の方に行きました。


「えへへ~」


 お母様は私の頭を優しく撫でてくれました。

 私はお母様を独占できて大満足です。

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