第66話 妖精王フレイの思惑

 月日は流れ、エリナは大学生になっていた。

 相変わらず異世界に来たり、コミケでコスプレしたりしている。



 ユウリは子供が増えた……沢山。


 正妻のユキ(ブリュンヒルデ)の子は全部で4人。

 ミサエ・ナカハラ宰相に2人、

 チヨ・モチヅキに1人、

 クーシー族達に36人、

 ビアンカに2人、

 コルデリアに1人、

 その他、ユウリの魔法やスキルを子供に継承させようとする貴族の令嬢との間にも子供がいる。


 その数なんと50人。

 そう、相変わらずユウリは押しに弱い。


 ユキは頑なに地味夫婦を演じようとしていて、元ワルキューレのブリュンヒルデで有る事を否定しているが、ユウリは脇が甘かった。甘々だった。


 異世界で事件が起きる度に、ユウリ伝説が積み上げられていく。





 或る日、フレイヤ様からメッセージが届いた。

 久しぶりに夢の中で呼び出されたのだ。


「兄である妖精王フレイが、ユウリとユキとエリナを晩餐会に招待したいと言っています」


「畏まりました。謹んでお受け致します」



 3人は妖精の森の泉を訪れて、フレイヤ様と合流した。


「御機嫌よう。この先は私が案内します。通常、人族は入れません。ブリュンヒルデも久しぶりに入るのですね」


「はい」




 泉を越えて森の奥へ歩いて行くと、霧が立ち込めて来た。

 森を抜けて草原に出ると、『虹の橋ビフレスト』が雲の中へと昇っている。



「『虹の橋ビフレスト』は破壊されたと聞いてました」

 ユキが呟いた。


「再建されたのです、容易い事です」

 フレイヤ様が答えた。




 『虹の橋ビフレスト』を昇り、アースガルズに入る。


「ファァ、綺麗なところ~。天国みたい~」


「ここから更に上の世界、アルフヘイムが天の国に最も近いと言われています」

 エリナにユキが教えてあげた。



 更に歩いて行くと、大きな白い屋敷が有りその庭に『光の船』が停泊していた。


 フレイヤ様に導かれて『光の船』に乗ると、光に包まれ一瞬でアルフヘイムに到着した。

 船が動いた感じはしなかった。


 プラチナシルバーに輝く王宮にいざなわれ、途轍とてつもなく広い会場に入る。

 3人は広大なテーブルの末席に座らされた。



 フレイヤが最上席の隣の椅子の後ろに立つと、それまで誰も居なかった椅子全てに、人の姿が現われた。

 そして全員が起立する。ユウリ達3人もつられる様に起立した。


 最上席にフレイが座ると、全員が着席する。


「ようこそ、アルフヘイムの晩餐会へ。今宵は、ごゆっくりとお楽しみくだされ」



 フレイの挨拶に続いてフレイヤが口を開く。


「皆さんに紹介します。末席の2人はブリュンヒルデの夫でユウリ、そして妹のエリナです」


 ユウリとエリナは無言で会釈をした。安易に口を開いては、いけない気がしたからだ。


 フレイヤ様の次席にはオーディン様が座っている。

 どうやら居並ぶ人々は、北欧神話に登場するフルキャストらしい。

 皆会話はしないが笑顔で食事を続ける。

 俺達もそれに従い、ニコヤカに食事をした。




「ふぁ~、お兄ちゃんこの林檎りんごおいしいよ~」


「どれどれ、うん美味いねユキもどうぞ」


「はい」



 フレイ様が口を開く。


「ふむ、選択は終わった。ところでユウリくん。エルフは何故長命だと思う?」


「はい、そう言う種族と伺っております」



「ふむ、それは違う。『イズンのリンゴ』を食べているからだ。『イズンのリンゴ』は命の林檎とか青春の林檎とか言われている。食べれば一定の期間だけ不老長寿になるのじゃ。全てのエルフは成人式にそのリンゴを食べるが、その為に暫く歳を取らなくなるのじゃ。私達特権階級の者は、定期的にそのリンゴを食べて、若さと長寿を維持している」


「はい、そうなんですね」



「人族で『イズンのリンゴ』を食べたのは、3人が初めてじゃ。そしてエルフと人族とでは、食べた時の効果も違うようじゃな」


 気が付くとユウリの足が床から離れ、テーブルは高くなっていた。

 両隣に座ってるユキとエリナを見ると、小3ぐらいの女の子になっている。

 勿論ユウリにも同じ変化が起きていた。



「お主達はアルフヘイムに身を隠した事にしよう。その姿ではミッドガルズに居ても誰も気付くまい。今までの立場を全て捨て、1人の人間として、1から自由に暮すが良い」


「ユウリ、もうヤラカサナイで下さい。ブリュンヒルデが一生懸命ワルキューレだった事を隠していたのに、あなたがヤラカスので台無しです。平凡に暮すように忠告したでしょう?  我々がアルフヘイムに引き上げた意味も理解しなさい。人族の世界は人族に任せる事にしたのに、あなたが人間離れした力を使っては、元も子もありません。あなたは人族だからこちらに引き取る訳にいきませんが、せめて人々に気付かれない様に隠れてスキルを使って下さい」


フレイヤ様に説教されて俺は小さくなって返事をした。


「はい、隠れて気をつけて生きます」



 ● ▽ ●



 シャルロッテとチャールズはヘイミル国王に引き取られ、俺達は2人の側仕え〈平民の御友人〉となった。

 公爵屋敷内で、3人それぞれに小さな部屋を貰った。

 それとトロルヘイムの岩窟城を本宅とした。

 たまに冒険者がダンジョンに挑戦しに来るが、城には気付かず、入れない様に仕掛けも施した。



「ブリュンヒルデよ、罰がそれぐらいで良かったと思うしかないのう」


 ヘイミル国王には、全て事情を話しておいた。


「それで魔力はどうなったのじゃ?」


「はい、今迄と変わりません」



「そうか、身分と力を隠して表舞台に出るなと言う事なのじゃな……」


「そうですね。これからは影から子供達を見守りたいと思います」


「そうだな」



 海賊船はトロルヘイムの山奥に隠した。ユウリが魔力供給しないと、ただの置物になってしまうから。




 シャルロッテとチャールズは10歳になり、アストリアの王都アンディーヌにある、王立魔法学院に入学する事になった。


 ユウリとユキは側使えとして、同じクラスに入学する。上級貴族の側使えとして良く有る事らしい。

 クラスメイトにエリナ、パッフィ、オゥちゃんもいた。

 みんな、魔力高めの平民と言う設定だ。


 ナカハラ、チヨ、クーシー族の子供達も2、3年後に入学する予定らしい。

 勿論、国王の圧力によって決められた事だった。



 シャルロッテは思った。


「このクラスって、大人しくて優しいお友達が多いなぁ」

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