第65話 海賊船の完成

 毒針暗殺未遂の偽令嬢の身元は分からなかった。

 しかし彼女は、やはり暗殺者ギルドからの刺客だったようだ。

 俺は彼女に掛かっていた、暗殺者ギルドの呪縛じゅばくの魔法を解いて第1級犯罪奴隷にした。

 第1級犯罪奴隷は基本的に終身刑だ。


 チヨも第1級犯罪奴隷だけど、なるべく早い内に奴隷から開放して、長野に返してやるつもりでいる。


「私の住んでた東京のアパートは、既に他人が住んで居ました。私の家族に部屋に残していた同人誌を見られてしまった筈なので、長野に帰っても家族に会わせる顔がありません」


 と、チヨは言ってるが、陰からでも両親の顔を見せてやりたい。



「出来るなら、以前の生活に戻っても良いんだよ、チヨの力が必要な時だけ手伝ってくれればいいから」


「ナカハラ宰相が帰らないのに、私だけ戻る事は出来ません。道理に反します」


「ナカハラ宰相だって時空魔法で本来の時間軸に戻れるなら、帰って貰おうと思ってるんだ。今はまだ、それが出来ないからしょうがないけれどね」



 奴隷にした偽令嬢には、本来は主人が何でも聞く事が出来るらしいんだ。

 しかし、中には家族に迷惑を掛けたくないのか、自ら逝ってしまう者が多いと言うので、自分から話すまで聞かないで置く。

 それでも奴隷としての活動に支障はないらしいから。


 ポーラと名付けた偽令嬢は、ナカハラ宰相が側仕えとして使う事になった。


「私にとって女性の奴隷の方が、都合がいい事もあります。それに彼女は、閣下の親衛隊員にする程の技量ではありませんから」


「そうなんだね」



「これ以上ハーレムを増やさなくてもいいですよねっ?」

 ナカハラ宰相の語尾に力が入ってた。


「うん……ミサちゃんも結構言うようになったねぇ」


「はい、美人だからって理由だけで、側には置かせませんよ!」



「ミサちゃんの方が美人だし、仕事も出来るから、心配いらないよ」


「はい、有難う御座います。お世辞でも嬉しいです」


「お世辞じゃないよ」


「はいはいっ、閣下は優しいですねっ」




 俺は海賊船に設置する魔道連射砲を作製している。

 日本に戻ってネットで検索したけど、スキルを駆使しても結構難しい。

 魔道連射砲本体は出来たけど、現代の弾丸は精密機械で大量生産する物らしいから。


 結局、弾丸に火薬を入れない事にした。普通の海賊船に摘んである大砲と原理は一緒で、火薬に火を点けて発射する代わりに、火魔法で【小爆発】を起こし発射する。


 本体の筒内のライフリングと団栗どんぐり型弾丸は採用した。


 火薬の薬莢やっきょうが入ってる弾丸に比べるとまだスピードが劣る様だけど、実用的な速度には達している。

 火薬の代わりに一発毎に【小爆発】を発生させるので、連射するには沢山の魔力が必要だ。

 一発討つのにMP1消費するとしても、百発撃てばMP100使う計算になる。

 一般人の魔力量がMP30ぐらいで、貴族の魔力量でも平均するとMP100ぐらいだと思う。

 俺が試験の為に弾丸を連射すると、すぐに魔道連射砲に設置してる魔石の魔力が空になってしまった。

 大きな魔石を複数個設置する事にしよう。



 試験を見ていたナカハラ宰相が意見を言う。


「海賊船に備蓄する食糧は、特上級インベントリー持ちの閣下が居れば何も心配ありません。ですが一応、魔道冷蔵庫も装備しましょう。もし、閣下が居ない時に漂流しても困らない様にです。 そして、トイレには汚物掃除屋のスライムを入れます」


「えっ! トイレスライムって本当にいるんだ! 俺は、まだ見た事がないんだよ」


「閣下は下水工事が好きだから、必要有りませんでしたからね」


「そうなんだぁ……って、別に下水工事が好きな訳じゃないよ。インフラ整備に興味があるだけなんだ」



「そうですか。でも閣下が作った浄水場には、ちゃんとスライム達が住み着いてましたよ」


「そうかぁ、最近は殆どミサちゃんに任してるから、気が付かなかったよぅ」


「そうですね、スライムを見たいですか? 今、船のトイレに入れる為に持って来てますよ」


「うん」



 荷車に載せた大きなバケツの蓋を開けると、緑色のスライムが3匹入っていた。


「緑色のスライムは枯葉や動物の死骸そして排泄物を消化します」


「ふ~ん」



「排泄物ばかり処理させると、茶色っぽく成ってきて、処理能力が弱くなります。ですから時々枯葉を入れて食べさせて、処理能力を回復させます」


「へぇ」



「枯葉に含まれる枯葉菌(納豆菌も枯葉菌の一種)が影響してるらしいです」


「そうなんだぁ。良く調べたねぇ」


「恐れ入ります、私の個人的見解なんです……」


「……はははっ、たぶん当ってるね。現場を良く観察してるのだね」


「はい」




 俺の魔道船には帆が着いて無い。いや、帆柱は建っているが帆を張らなくて良いと言う事なんだ。水中に出てるプロペラを魔力で回して推進力にしているから。

 魔力と電力は扱いが似ていて、モーターエンジンに魔力を流してもプロペラが回転する。

 流す魔力の量を変えると回転数も変わるのでスピードも調整できるんだ。


 それに【浮遊】と【飛行】を発動する大きな魔石を船に取り付けたので、見事に船が空中に浮かんだ。

 しかしバランスが取れなくて、船が回転してしまったので、船倉にバランサーをつけた。

 右に傾くと左が重くなり、左に傾くと右が重くなり、元に戻ろうとする仕組みだ。


 そして魔力で格納する事が出来る翼も着けた。

 空を飛ぶ推進力は、やはり魔道モーターエンジンでプロペラを回して進む。

 海を進むプロペラは下部に2基付いてるが、空を飛ぶプロペラは後方真ん中ぐらいの高さに2基付いている、飛行用のプロペラは円筒状のカバーでおおっていた。


 海賊船は試行錯誤を繰り返し1年ほどで完成した。

 飛行船のパイロットは俺だ。だって空の操縦は誰がしても始めてなんだから。

 もしもの時は、俺が魔力で回避しなくてはならないので、その時は【風魔法】と【空間魔法】を発動する。

 地面に激突する前に【転移】で空中に戻したり、【強風】で空に舞い上げたりするつもりだ。


 船体上部のデッキを囲む様に、対物理対魔法障壁の【マルチバリアシールド】を発生する魔道具も取り付けた。

 上級空間魔法を発生する魔道具なので製作者はかなり限られる。と言うか、人族では普通は無理だとルミナ〈スクルド〉に言われた。


 魔道連射砲、プロペラエンジン、バリアー、ランプ、冷蔵庫、レーダー等魔道具に魔力を満タンになるまで注ぐのは、とても大変だ。

 普通の人間の魔力量では、大勢で何回も注入しなければならない。

 俺は魔力源泉にパスを持ってるので、すべて満タンに出来るが、ノルン地方に居る時に限る。

 実はノルン地方の外に居ても、満タンに出来る魔力量を持ってるけど、人前では自重する。あまりにも人間離れしてるから。


 海賊船ができて、船長〈俺〉も決まった。

 海賊会議に出席して、海賊ギルドにも登録した。

 暖かく成って来たらテスト航海に出よう。


 西の方へ向かって暖かい南を目指そうかな。



 〇 ▼ 〇



 春の暖かい日に、家族や側近達を試験航海に招待した。

 俺の子供シャルロッテとチャールズは3歳に成っていて、みんな大喜びしてくれた。


「それじゃあ、これから飛びますよぅ。【浮遊】【飛行】スイッチオンッ!」


 グググググッ、ザザザザザッ、ヴワッ!

 グウウウゥゥゥン!


「「「オオオゥ!」」」



「推進エンジンオンッ! 微速前進」


 ブルルルルルルルル……


「「「オオオゥ!」」」



 俺は少しづつ加速する、そして、


「全速前進!」


「「「オオオゥ!」」」



「速い、海の上より速いぞ!」


 上下左右に展開した翼のお陰で揺れる事無く、真っ直ぐ進んでいる。



「ゆっくり旋回」


 翼のエルロン〈補助翼〉が動き、問題なく方向を変えて行く。



「ふーっ。今の所、俺は魔力は使ってないけど、ちゃんと飛んでるよ」


「へぇぇっ、僕の翼はほとんど飾りで、通常は魔力で飛んでるんだよ」

 パッフィ〈ファフニール〉がそう言った。


「そうだったんだ!」


「うん。口から吐く【火炎弾】だって、魔法だからね」


「ふ~ん。考えて見ればそうだよね、物理的に無理があるよねぇ」



「この海賊船を購入するとなれば、白金貨百枚(日本円で1億円ぐらい)でも足りないでしょうね」

 とナカハラ宰相が言った。


「ほぼ魔道具の値段だけどね」

 とルミナ〈スクルド〉が言った。



「私は海賊令嬢になるっ!」


「ぁああっ、エリナ! それは俺が言おうと思ったのに~、もぅっ!」



「エリちゃんは魔法少女に成るんでしょう?」


 ルミナが、エリナの言ってる意味が分からず困惑していた。



「へへへ~、私は海賊魔法少女令嬢になるっ!」


「もう、盛り沢山で訳が分からないね。それって一体、どんな姿になるんだい?」



「ドレスを着てぇ、アイパッチを点けてぇ、肩にオウムを乗せてぇ、魔法のステッキを持ってぇ、ポーズを決めるのよっ!」


「「はぁ、はいはいっ」」


 俺とルミナは一緒に溜息をついた。

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