第64話 暗殺者ギルド壊滅

 ある令嬢とダンスを踊ってる時、彼女が不意に襲い掛かってきた。

 ドレスの下に毒針を隠し持っていたのだ。

 俺の首筋をチクンと針が刺す。

 と思ったが、一瞬早くチヨの手が暗殺者の手首を押さえていた。


「きれいな花には毒がある。ってね」

 チヨが陰から出てきて令嬢を拘束した。

 周囲の誰もが、何が起きたか分からなかった。



「地下牢に入れて置いてくれ」


「畏まりました」

 1番近くで側に控えていた護衛騎士が、返事をして連れて行った。



「閣下治療致します。控え室へ参りましょう」

 ナカハラ宰相が言った。



 控室にて、


「閣下……傷が見当たりません、この辺りですよね?」


「チヨが寸前で止めてくれた様だね」

 ナカハラ宰相が顔を近づけて良く見るが、傷を見付けられなかった。



「チヨ、ご苦労様」


「いいえ、ご主人様が分かってらしたので、何かお考えが有ると思い、ギリギリまで待っていました」


「うん、たぶん毒は俺に効かないと思ったんだ。それにチヨの腕も見たかったしね」



「チヨ、見事です。良く防ぎました。……閣下は危ない橋を渡らないで下さい、公爵なんですからっ」


「うん。危ない橋は壊しちゃおうか」


「それは、暗殺者ギルドの事ですか?」


「そうだね」



「はぁっ……組織が大き過ぎます、いくら閣下でもプロの殺し屋数百人を、相手に出来ますでしょうか?」


「あの~、よろしいでしょうか?」


「なんだいチヨ、言ってごらん」


「冒険者の宿の犬人族達は、人族より動きが俊敏で剣術の心得もあります」


「ふむ、犬人族の娘たちは上泉信綱殿に稽古を受けているからね」



「彼女達は、ご主人様と主従契約も結ばれてますので、現状ではご主人様の親衛隊として最適かと思います」


「うん……」



「それでは彼女たちの抜けた穴を埋める為に、研修所の職員をもっと募集しましょう。結構繁盛してますから、職員が足りなくなってしまいます」


「ナカハラ宰相、それならまずハーマルの孤児院に声を掛けておくれ。研修所の侍従長ビアンカも孤児院出身なのだからね」


「畏まりました」



「成人前の子供でも良いよ、見習いとして研修所で教育すればいいから。シスターにも了解してもらってね」


「畏まりました」



「これからも、明るく楽しい職場になるといいね」


「はい」



 〇 ▼ 〇



 俺は宴がお開きになるまで、忍耐強く接待を続けた。とても長く時間を感じた。


「ふーっ、疲れた~」


「あなた、お疲れ様でした」


「ユキもお疲れ様、ありがとう大変だったね」


「受身に徹してましたので、それほどでもありませんでした」



「何か気になる事はあったかい?」


「特にありませんが、漁業も産業も順調の様です」


「それは良かったね。魔力源泉を支配してから、土地も海も恵みに溢れてる様だね」


「はい。貴方も頑張ってますね」


「はははっ、趣味と実益を兼ねてるから、楽しく働いてるよ」


「そのようですね」




 宰相は辞令を発して、犬人族を研修所職員から、新設したノルマンド親衛隊に入隊させた。

 そして、チヨを親衛隊の教官に任命した。

 ノルマンド親衛隊員はモチヅキ・チヨ、犬人族のアンナ、カリナ、サリナ、セリナ、ハルナ、マリナ、ユウナの8人だ。

 そして、親衛隊長は俺の養女ナホコ・ユリシーズ・ノルマンドが就任した。

 幼女でも神獣で、隊員の中で最強だからね。まぁ、もう少し大人になる迄、なるべく現場には出さないけど。

 実質的に現場の指揮は、チヨが執る事に成っている。



「貴族の護衛騎士がいるから彼らを立てておくれ、親衛隊は目立たない様に行動してね。難しいだろうけど、君達に多いに期待しているからね」


「閣下のお側に仕える事ができて光栄です」

 アンナが代表して挨拶をした。



「旦那様にご報告があります、我々は上位進化に1つの条件を残して達しております。どうか、進化条件を満たして下さいませ」


「進化すると、どういう変化があるの?」


「犬の妖精『クー・シー』になると言われてます」


「見た目が犬の様になるのかい?」


「姿は人間にも犬にも変身できると聞いてます」



「今迄に『クー・シー』に進化した者はいるのかい?」


「私達は、見た事がありません」



「進化条件は何だったの?」


「はい。体力、魔力、精神力、武術、そして魔力源泉による生涯の主従契約です」


「生涯の……俺は君達に、結婚して幸せになって欲しいんだ」


「私達は旦那様に付き従う事こそが幸せなのです。私達犬人族の習性で伝統でもあります」



「結婚はしなくていいの?」


「旦那様のお許しがあれば、誰とでも結婚は出来ますが、今はそれを望んでいません。

 私達は……旦那様の子を生みたいと思っています。誰かが産めば全員で養い育てます。旦那様の後継者の為に」


「「「……」」」

 俺と宰相とチヨは何も言えなくなってしまった。



「価値観の違いは棚上げしといて、人間に変身出来るなら上位進化を試みてもいいかなぁ」


「はい」



「トロルヘイムの魔力源泉にテレポゲートオープン!」


 ブゥウウウウウンッ!



 俺は、魔力源泉である大きなクリスタルに犬人族全員の両手を触らせる。


「アンナ、カリナ、サリナ、セリナ、ハルナ、マリナ、ユウナと主従関係を結びます」

「「「「「「「私達は生涯ユウリ様に御使え致します」」」」」」」


 パァアアアアアアアアアアッ!


 クリスタルから光が溢れ俺と犬人族を包んだ。

 光が消えると、7匹の馬の様に大きな妖精犬『クー・シー』の姿があった。

 それぞれ7人とも色が違うが、ラメを散りばめた様に体毛がキラキラしている。


「人属の姿に変身できるかい?」


 シュィイイイイインッ!


 全員が人属の姿に変身した。犬人族時代の顔の面影がしっかり残っている。



「ステータスが、かなり上昇していますね。良い忍者になれます」

 チヨが呟いた。


「チヨ、親衛隊に相応ふさわしい制服を作らせましょう。そして、お揃いのスカーフを巻きましょう」

 とナカハラ宰相が言った。



「それじゃあ帰ろうか。ハーマル城にテレポゲートオープン!」


 ブゥウウウウウンッ!



「親衛隊員を衣裳部屋に連れて行き、制服を作ってもらいます」

 宰相が隊員達を連れて出て行った。





 約1ヶ月後、


 俺は、お揃いの制服を着たノルマンド親衛隊員達を整列させた。

 そしてチヨに話しかける。


「モチヅキ教官、隊員達の訓練が出来たら暗殺者ギルドを討伐するぞ」


「すでに準備は整っています。全員優秀な親衛隊員です」



「オゥちゃんとジュンちゃん……じゃなくて、ローグ将軍とエムジェイ魔術師団長にも同行して貰うからな」


「はい。 暗殺者ギルド本部の場所はアストリアのバーリンです」


(バーリンはドイツのベルリンの辺り)



「それじゃあ、ヘイミル国王に報告して、許可を貰っておこう」


「はい」


 チヨを始め、親衛隊員達はベージュ色の真新しい制服に深紅のスカーフを巻いて、深緑色のベレー帽を被ってる。キュロットスカートにハイソックスが可愛いかった。




 その日、バーリンの町は普段通りに見えて実は違っていた。

 私服のアストリア魔術師団員達が大勢紛れ込んでいた、暗殺者達を逃がさない為に。

 ラウダ魔術師団長の合図と共に、アストリアの騎士達が近辺の住民を避難させると、パフィがドラゴンに変身して、大きな火炎弾を暗殺者ギルドの建物に豪快に打ち込んだ。


 ボワンッ、ドドォオオオオオンッ!

 ズガガガガァアアアアアンッ!!



 そして巨人に変身したオゥちゃんが突進して、門やドアを破壊しながら奥へ奥へと突き進む。


 ドガガァアアアアアンッ!

 ドガガガガァアアアアアンッ!!



 その後に、俺とノルマンド親衛隊が突入して、歯向かう者を叩き伏せて拘束する。

 親衛隊員の武器は、俺が作ったミスリルの魔法剣なので頑丈で軽い。

 しかも敵に触れるとハイボルテージの電気を流すビリビリモードと、超鋭利な高振動刃モードと、刃無しの安全モードに切り替える事ができた。

 暗殺者ギルド長は逃げ出そうとしていたが、チヨが見事に捕まえた。



「お見事、よくやったねチヨ」


 俺はチヨの頭をいい子いい子と撫でてやった。

 気が付くと他の隊員たちも頭を差し出してるので、同じ様に7人の頭をいい子いい子と撫でてやった。



「オラもして欲しいだぁ」


「オゥちゃんもいい子いい子」

「えへ~ぇ」


「パフィもいい子いい子」

「へへ~ン」


「ごちそうさまです」

 チヨが小声で、そう言った。



「ギルドは壊滅したけど、暗殺者は残ってると思うから、これからも油断しないでおくれ」


「「「「「はいっ」」」」」

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