第25話 現地研修所の完成

 冬から春へと季節が変わる。


 冬には氷点下に成る事もあったが雪は少なかった。北西に山脈が連なるせいだろうか。

 太陽も良く出て、晴れの日が多いので昼間は暖かくなる。寒暖の差が有るので作物や果物の実りが良いと思う。

 地球の北欧の事は良く知らないが、ここは作物が豊富に取れる。

 と言っても、熱帯のバナナ、カカオ、マンゴ、パパイヤ、パイナップル等は見た事が無い。しかし、東京周辺で作られてる作物は結構見かける。


 そして何と言っても、暖流の影響で魚が沢山取れる。サーモン、イワシ、サンマ、アジ、サバ、お馴染みの魚が港や魚屋にあふれている。ただし内陸で売られてる魚は、ほとんどが塩漬けに成っていた。冷蔵庫や冷凍庫が無いからだ。

 魔法で魚の腐敗を遅らせる事は出きるが。販売価格が高価に成ってしまい、庶民には食べる事が出来ない。美味しい新鮮な魚を食べるには、馬車か歩きで港町に行くしかないという。



「ユキ、美味おいしい魚を食べる為に、港町に【転移】出来る様にしたいね」


「川港ではなくて、海の港町アスロがお勧めですね。ハーマルの更に南に、3日ほど歩いた所にある大きな港町です」



「ユキは言った事があるの?」


「あります、もちろん【転移】も出来ますよ」


「ふ~ん、ユキは他にも【転移】で行ける所がありそうだねぇ」


「はいゴートン国、フランカ国、ロマネ国へ行った事があります。ゴートン国は私の生まれた国なのです」



「たまに里帰りしなくて良いの?」


「……ゴートン国に私の居場所はありません。……もう、親兄弟に会うつもりは無いのです」


「……そうなんだ」


「はい……」



「何でも、遠慮しないで相談してね、夫婦なんだから」


「はい、ありがとう」


「それじゃぁ今日は、港町アスロへ行ってみようよ。俺は行った事が無いので、ユキの【転移】で一緒に行こう」


「はい」


 俺が両手で抱くように接近すると、ユキの顔がほんのり赤くなった。



「港町アスロへ2人で【転移】!」

 ユキが魔法を発動した。


 シュィイイイイインッ!


 人目に付かない様にと、町の外の木々の間に転移していた。



 アスロは活気のある町で人がとても多く、映画で見たバイキングのような格好の男もいる。

 そういえば地球の海賊の本拠地はオスロだったかな、ここが異世界で対応する町なのかも知れないね。


「結構、賑やかだねぇ」


「そうですね、祭りの時はもっと賑やかで、歩くのも大変なんですよ」


「そっか~、祭りにも一緒に来ようねぇ」


「はい!」



「折角来たんだから魚を買って帰ろうか? ユキの好きな魚はな~に?」


「嫌いな魚は有りませんが、特にサーモンとサンマは大好きです」


「じゃあ、それを買いに行こう」


「はい」


 サーモンとサンマを沢山買った、安いし新鮮だから。

 俺のインベントリーに入れて置けば、ずーっと新鮮なままだからね。


 他にも色々買い物をして、来た時と同じく町の外の木々の中から【転移】して、妖精の森の家に帰った。





 妖精の森には鉱床が沢山有り、特に金が沢山埋まっているが、フレイヤ様の恩恵を受けてる森を荒らすような気がするので、あまり取る気に成れない。

 作物や果物は翌年また出来るが鉱物は採れば無くなってしまうよね。

 北欧神話では「フレイヤが歩いた後には金がある」と言われてたから、金鉱石が沢山有るのは、その所為かも知れなかった。


 ある日フレイヤ様が夢に出てき時に、


「ユウリ、妖精の森の物は何でも取って良いのです。使わなければ価値の無い物と同じです。心無い者に私物化され悪い事に利用されるよりは、貴方が良いと思うことに使いなさい。妖精の森の魔力の源泉はとても強力ですから、鉱床を採掘しても回復して豊かに保たれるでしょう。その為に、私が森を守護してるのですから」


 そう言って、フレイヤ様はやさしく微笑んでいた。



 テレビも週刊誌も新聞もゲーム機も無い。

 時間が沢山あるから採掘、鍛冶、細工、錬金にチャレンジする事にした。

 ポーションと魔道具の生産は異世界小説の定番だから。


 妖精の森の自宅の傍に工房と倉庫と温室を作った。

 エリナとナオちゃんの部屋も増築する。


 温室の北側の壁は木材で作り、それ以外はガラスを多く使ったので太陽光が十分に入る。

 ガラスは【鍛冶】【細工】【精錬】【合成】スキルで、板ガラスが何とか出来たが、透明度はちょっと低い。

 幅10センチの角材を縦1メートル、横1メートルの間隔で格子状に組んで、板ガラスを嵌め込む。

 日本の温室とは大分違うが、十分に役割を果たしている様だが。冬は薪ストーブで室温を保つようにした。



 俺は妖精の森で【採掘】【採取】をして、工房で【鍛冶】【錬金】をした。

 ユキはチーズ、バター、ウインナー等、料理関係の研究作製をする。勿論一緒に生産もした。


 草原の研修所作りは順調に進んでいる。

 重い材木はインベントリーに入れて【転移】すれば、運ぶのに人力は要らない。

 大まかに言えば、サイズを決めて鋸で切ってカンナをかけたら、釘などで固定させれば良いかなと思った。

【大工】【木工】【細工】スキルがそれぞれLv5に成ってるので、結構上手に出来てると思う。

 問題が有る所はオゥちゃんが直してくれた。




 研修所の建物は3月の始めに完成した。驚異的な速さだが突貫工事ではないと思う。

 建物の配置は「コの字」状に3棟で、その中庭に井戸と洗濯スペースが有る。


 直径1メートル・高さ1メートルの丸い木樽の様な物を洗濯スペースに置いた。

 水タンクからといで水を流し入れ、洗濯物と洗濯用石鹸を入れる。

 二重構造の内側の木樽が、魔道術式で回転して汚れ物を洗う魔導簡易洗濯機だ。排水栓から水を抜いた後で脱水も出来る。

 建物は全て1階建てなので、日当たりは心配無いだろう。


 キッチンには魔力で動く魔道冷蔵庫を置いた。

 冷風を発生する魔石が入っていて、時々魔力を補充して冷気を維持する仕組みだ。


 離れに厩舎と倉庫を作り、倉庫の中には大きな冷蔵室と冷凍室を作った。

 現地の技術で外気を出来るだけ遮断して、魔石を中心にして魔道術式を書き込んで温度を管理していて、この魔石にも時々魔力を補充する。


 建物内外のランプは、俺とユキが作った魔道具で、魔道具製作の先生はスクちゃんだ。

 俺とユキのMPは999なので魔道具への補充は余裕で出来るが、将来は風力、水力、太陽光等にしたい。


 土地面積は小さめの小学校ぐらいで、更にその外側に畑を作り、果樹を植えた。

 イモ類と豆類は、日照りや飢饉に強く手間が掛からない。特にサツマイモとえんどう豆は、長く保存が出来て栄養価も高い。江戸時代に日本を大飢饉が襲った時、サツマイモを栽培していた地域は、人的被害が出なかったと聞く。又、ヨーロッパでは兵士の戦時中のビタミン不足をジャガイモで克服したという。


 内外装はコンチャンに相談してからにしよう。

 最低限の宿泊が出来るように、ベッドとシャワーは使える様にしておいた。


 街道まで馬車が通れる様に、インベントリーで草刈をして【土魔法】で平らに固めて道路を整備した。

 山側の小高い丘に【土魔法】で溜池を作り、研修所まで水路も作った。

 水路の途中に、日本の田舎に有る様な水車を作ったので、小麦等を脱穀する事が出来る。帰国したら発電機を持って帰り設置する予定だ。下流の小川に流れていく下水道も作った。

 完成した時【土魔法】スキルがLv5(達人級)まで上がっていた。相変わらずレベルが上がり易いなぁと思った。



 俺達3人は、3月に再びフレイヤ様の泉を訪れて、感謝の言葉を伝えた。


「無事に自宅や研修所が完成しました。恵みと祝福に感謝します」


 料理と菓子を沢山捧げた。



「良かったですね。貴方達に神の恵みが有ります様に」


「「「有難う御座います」」」






 金曜日にリリーメルの町へ行くと、ギルドスタッフに尋ねられた。


「ユウリさん、フォレブ草原に家を建てたのですか?」


「はい、お世話になってる人から、宿泊施設を作ってくれと頼まれたのです」


「そうですか……、宿の規模に応じて毎年税金を払うことになると思いますが。小規模で金1枚、中規模で金2枚、大規模で金4枚を毎年徴収される事に成ります」


「わかりました、有難う御座います」



 研修所の宿泊費は、リリーメルに有る宿の値段と同じにした。フォレブ草原に競合他社は無い。


 スタッフを雇うことにする。

 ハーマルの孤児院で成人したばかりの子達を面接して、生活魔法と読み書きと計算が出来る女の子を2人、ユキに選んで貰った。

 

 まだ研修生も冒険者も来てないが、見習い女子2人の指導をユキにお願いした。

 2人は15歳で、ビアンカとコルネリアと言う名前だ。

 ショートヘアのビアンカは活発なお姉さんタイプで、セミロングのコルネリアは控えめなおっとりさんタイプだ。


 2人は研修所に住み込みで働き、ユキの指導でホテル業を勉強する。

 俺とユキは妖精の森の家に帰って寝るが、ビアンカとコルネリアは、研修所の4畳半ぐらいの個室に1人1部屋で住んで貰う。

 グラーニが夜の研修所の用心棒で、グラーニの為に離れの個室を作って上げた。離れにしたのは人の姿でも馬の姿でも、好きな方でリラックスして休んで貰う為だ。


 グラーニが人の姿の時は、ユキの双子の妹という事にしておく。


「お姉さま」

 と、グラーニはユキの事を呼び。


「ラナちゃん」

 と、ユキはグラーニを呼んだ。



 俺とユキが出勤すると、グラーニは馬の姿になり、夜まで何処かに遊びに行ってしまう。相変わらず自由気儘に行動してるようだ。

 食事はオゥちゃんも連れて来て、研修所で皆で食べる。

 ちなみにオゥちゃんも【転移】が出来る様になったが、何故か俺と一緒に【転移】したがる。

 ユキがそれに気付き「オゥちゃん! メッ!」と諌めていた。


 料理をするのは基本的にビアンカとコルネリアだが、俺とユキとオゥちゃんも、得意な料理を作って2人に教えて上げる。3人共、料理の先生であり家事の先生だ。


 ちなみに俺は、お酒を飲んでもあまり酔わないが、それは【状態異常耐性】【状態回復】パッシブスキルのお陰らしい。


 時々、病気や怪我で尋ねてきた人に治療をした。

 医者や薬屋の仕事を奪うつもりは無いけど、求める人には応じたいから。

 勿論、無料で治療してあげている。商売ではないので宣伝はしないし、看板も出さないよ。


 噂を聞いて遠くから来る人もいるようだが、町まで1時間ほど掛かるので泊まって貰う事が多い。そういう時は従業員用の部屋を無料で使って貰う事にした。

 医者に匙を投げられた病人や、治療代や薬代を払えない人達が、金曜日に薪を売りに行く俺達を、町の広場に尋ねて来る事もある。

 ユキの【完全回復】を使うと、重病の者も治ってしまった。ちなみにリリーメルの町に病院は無いし、医者もいない。

 薬屋も無いが雑貨屋で薬を売っている。商売敵に成りたくないので、町へ行く度に薬草とポーションを格安で提供した。雑貨屋の生産注文にも喜んで応じている。

 町には1週間に1回しか行かないし、研修所はポッツンと1軒屋なので、雑貨屋の売り上げには影響していない様だ。むしろ格安で仕入れが出来る様になって、喜んでくれていた。



 何もする事が無い僅かな時間は、剣術等のスキル上達の為にユキと稽古をする。

 纏まった空き時間には転移でダンジョンに跳び、魔石を集めた。


 冒険者育成用のダンジョン9箇所は、全て1回で攻略した。

 ちなみにウルドとベルダンディーには、まだ会ってない。スクルドは、たまに家の工房に来て一緒に魔道具を作ったりしているが。



 魔石が結構溜まってきたから魔石インクを作って置いた。

 妖精の森でミスリルを【採掘】したので、自分用の弓と矢をミスリルで作ってみる。余ったミスリルで剣と槍と盾も作った。【鑑定】してみると全て「高品質」だった。


 妖精の森では、他にもアダマンタイト、アレキサンドライト、ダイヤモンド、ルビー、エメラルド、サファイア、オパール、トパーズ、プラチナ、金、銀、銅、鉄が【採掘】出来た。

 わざわざ宝石を採掘しには行かないが、偶々たまたま見つけた時は採掘する。【インベントリー】で地中に埋まってる宝石も簡単に回収出来てしまった。

 土の下の鉱物も、その上でミョルニルを振るうだけで、インゴットになって地上に現われてしまう。

 宝石は【細工】スキルでアクセサリーを作り、魔法付与の練習に使った。

 特に使う予定が無ければ、採掘しすぎないように控えめにしたのだが……誕生日プレゼントにでも、しようかな?


 キノコや果物は、食べ頃の物を見つけた時に採集する。薬草、蜂蜜も時間が有れば採取する。これらの物はとても豊富にあるので、遠慮なく採取させて貰う。蜂蜜は雑貨屋に持っていくと大変喜ばれた。



 そろそろ高校が春休みになるなぁ……、

 1回、日本に帰ろうかな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る