第20話 証明写真


 レイカさんは、パチンと手を1つ叩き座り直した。


「さ!私が教育係になった以上、優秀な従業員になってもらわなきゃね」

「は、はいっ」


「といっても、私も、みんなも、あなたのこと、完全に信用している訳ではないの、教えることができる仕事にはある程度限りがあるわ」


 まあそうだよな、僕はどんな仕事することになるんだろうか。

 掃除まではいかなくとも、その移動の支援や、外からパソコンを使ってエレベーターを操作したり…

 なんかかっこいいな、僕


 僕は、昨日は命の危機を感じていたが、今日は妄想を広げちゃったりしていた。


 …もしかしたら、変装して極秘の期間に潜入しちゃったり!



「僕くんは想像力が豊かみたいね」


 レイカさんは腕を組んで僕を観察しているようだった。

 レイカさんには少し怪しまれたが、僕はテレビや映画でハンサム俳優がしているようなカッコいい仕事を給料付きで行えると考え、ウキウキしていた。


 さぁ、どんな仕事なんだろうか!

 妄想は後にして、聞いてみなくっちゃな。


「信用してもらえるように頑張ります!で、ちなみになんですが、僕はどんなことを教えてもらえるんでしょうか」


「そうね、まずは証明写真でも撮ってきてもらいましょうか」



 ん?


「証明写真ですか?」


 あれ、意外と普通?


「アルバイトや会社に就職するときには、顔写真、必要よね?」


「あ、はい、そうですね」


 言われてみれば、履歴書すら出してないな…

 いくら表向きじゃない職場だって言っても、やっぱりいるよな、書類関連は。


「ということで、僕くんには、これを渡しておくわ」


 レイカさんはカバンからジャラジャラと小銭の入った小さなビニール袋を取り出した。


「ごめんなさいね 、こんな袋に入れちゃって。これは経費だから、証明写真にはこれを使ってちょうだいね」


「ええ、ああ、はい」


 僕は両手を揃えてそのジャラジャラと音のするビニール袋を受け取った。


「もうこんな時間ね、私はもう行くけど、何か質問あるかしら?」

レイカさんは手元の腕時計をチラリとみた。


「あ…ええと」


 もう行ってしまうのか、レイカさんは、多忙な人なんだな…、急に質問されて、僕は戸惑った。

 証明写真を撮ればいいんだよな…。


 いつまでに提出かなぁ、まあ今日撮りに行こうかな。

 あ、サイズは指定あるのかな。


 レイカさんはカバンの蓋を閉め、もうすぐここを発とうとしている様子だ。


「まあ、何か質問があったら、またあとで聞いてちょうだい。あ、あと、証明写真はここから近い機械じゃなくて、駅に近い方の機械がオススメよ、性能が良いわ。」


 ああ、駅前にあったかな、そういえば。

 質問、質問、聞いとかなきゃな。

 サイズと提出と、服装と…


 僕は手元のビニール袋にふと視線を落とすと、小銭が異様に多いことに気がついた。


「あ、あのー、これ、小銭が多いみたいなんですけど…って、あれ?」




 あたりを見回したが、既にレイカさんの姿は無かった。

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