第9話 21時、ヤバイ!
お客さんの数も少なくなった頃、時計を見ると僕のバイトの上がりの時間だ。外はすっかり暗くなっている。
「ふぅー、疲れた、お先に失礼します」
誰に言っているかとか、そういうのはないが、何も言わずに出るのも気分が良くないので、パートのおばちゃん軍団にギリギリ聞こえるぐらいの声量で挨拶する。
まあ返ってこないがそんなことは気にしていない。着替えも済んだし、後は買い物して帰るだけだ、お疲れ、自分。そう思いながら、ドアに手を掛けたところで、誰かに話しかけられた。僕に話しかける人物などシフトの調整をしているヒガシさんというオバちゃんくらいだが、声のする方向を振り返るとそこには話したことのないオジさんがいた。
「君、レジの僕くんだよねえ?」
「そうですが」
僕は人に話しかけられるという珍しい場面に少し動揺しながら答えた。
「話があるって、カナヤマダさんが言ってたよ。カナヤマダさん、今忙しいらしいから引き止めて置いてって言われてるんだけど。」
カナヤマダさん…?社員さんだったかな…。なぁーんか聞いたことあるけど、おぼえてないなぁ…。僕は眉間にしわを寄せながら、カナヤマダさんの顔を思い出そうとしたが、やっぱり出てこず、これはわからん、と諦めた。
「僕君はこの後買い物してから帰るよね?」
「あ、はい」
ん?なんで知ってるんだろう。僕は少し疑問に思った。が、そんなことは御構い無しにオジさんは話し続けた。
「じゃあ買い物のあと、またバックヤード寄ってくれるかな」
帰り遅くなるけど、呼ばれてるんだったらしょうがないか。
「はい」
それじゃあそういうことでよろしくね、とオジさんは手を挙げて去っていった。僕も店内に入り、夜食を調達しに向かった。
閑散としたレジで会計を済ませ、立ち仕事でだるくなった脚を頑張って前へ降り出しながら出口へ向かった。
「はあ、今日も疲れたな」
僕は息を吐き、本日の疲れを確認した後、用事を思い出した。ああ、そうだそうだ、呼ばれてるんだった。行かなきゃな。
こうしてまたバックヤードへ向かった。何の用事だろうか、心当たりはないが、呼ばれている以上いかねば。今日の夜食はいつもと少し違っている。気温も高くなってきたので、僕はアイスを買った。働いたあとのアイスは格別だろうな、アイスを食べるのを楽しみにしている僕としては、溶けないうちに早く帰りたいところである。
ドアに手をかけたところで、後ろから名前を呼ばれた。
「僕くーん!」
あれ、僕呼ばれたな、今。後ろかな。呼ばれた方向に振り返り声の主を確認しようとしたができなかった。すると、
ガサッ!
突然、ガサッという音ともに視界が真っ暗になったのだった。な、なんだあ!
「あっ、麻布ぉ!」
頭に布を被せられた!突然の出来事に僕の眠気もさめ、頭を覆う布を必死に拭おうとする。しかし何者かに布は押さえつけられ、さらに僕の動きも封じられてしまった。
1人じゃない!何人かいるぞ!
流石にまずい、これは誘拐されるパターンだ、と身の危険を感じた僕は助けてを呼ぼうと息を大きく吸った。
「すぅぅ…だれかっ!…」
最後まで言い終わらず、口元も抑えられてしまった。大声を出して助けを呼ぶことは誘拐犯はあまり良いように思わなかったらしく、
僕はお腹に鈍い痛みを感じ、まもなく意識を失ったみたいだ。
「あ…アイス…」
とにかくアイスが気がかりだった。
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