第7話 ジャムがぬってあったら…
「たしかに人がいたはず…」
だがいない、これはどういうことだ?
僕は顎に手を添えて考えた。黒っぽい塊が見えたんだけどな、背格好からして男のはず。僕は驚いたけど相手は驚いていたか?いや、僕の慌てた奇声しかそこにはなかったはず。
本当に人だったんだろうか。
僕は思わず頭をポリポリとかいた。考えても思いつかないな、頭を掻いた腕を下ろす途中で腕時計の文字盤がチラリと光った。
「……時間!」
慌てて自転車にまたがって、勢いよく蹴り出した。
場所は変わり、大学の講義棟。
「ハァハァ、ヒィー、あつい、ふぅー、間に合った。」
僕は額の汗を手で拭いながら教室に入った。
遅かったせいか、席がだいぶ埋まっている。
「このへんでいいか」
端っこの席に決めた。リュックを下ろし椅子に腰掛ける。筆箱、ファイルを取り出し、お茶でも飲もうか、そう思っていたところ後ろから声がした。
「あの、隣いいですか」
これは、一大事だぞ、…女の子だ!女子大生が僕の隣に…なんてことだ…、そうか、席があまり空いてないからな、こういうこともあってもおかしくないよな。前世で僕は何か良い行いをしたんだな、きっと。前世の僕ナイス!おっと、僕、おちつけおちつけ、紳士たれ、落ち着いて対応するんだ。決して女の子に引かれてはいかん。ふぅー。
「…はい」
あああ、思ったよりそっけない態度が出た。ちくしょう、僕は返事ひとつうまくできないのか、お、でも女の子は隣に座ってくれたぞ。よしよし、なんとかなった。女の子が隣にいる授業、、、良い。
チャイムがなり、教授が喋る。
「今日は前回のレジュメの残りをしてから、新しいところに…」
そこで僕は現実に帰ってきた。そうだ、レジュメレジュメ。ファイルから前回のレジュメを取り出して、続きのページを開いた。
「よし」
さあ授業聞くぞ、そう思いボールペンをカチッとノックしたところで、隣の女の子がレジュメを持ってないことに気がついた。忘れたのかな…?僕は周りにおいていたファイルや教科書を避けて、女の子に僕のレジュメが見やすくしてあげた。どこやってるかわかったほうが良いよな…。スッとレジュメを女の子の側に近づけると、女の子が小さく会釈してくれた。「よし、引かれてない」そう確認したところで僕は授業に意識を向けた。
「今日はここまでにする、次回は実習形式で行うので教室は…」
ふぅー、終わった終わった。僕は机に広げた荷物を片付け始めた。次の教室はちょっと遠いから急がなきゃな。そう思っていた時、肩をトントンとたたかれた。女の子だ。ちゃんと見ると可愛いな。
「今の、あなたのことじゃない」
「へ?」
「医療学科の僕〜、いたら前来い、いないのかー?」
教授が僕を呼んでいたみたいだ。なんだろう、レポート提出してなかったかな。小走りで教授いる教卓へ行く。
「はい、なんですかね、レポート課題ありましたっけ」
教授は眼鏡をかけた中年男性だ、白衣を着ている。小さな紙を持っている、あれか、学生課から僕に対して連絡でもあるのかな。
「おう、お前が僕か?」
「そうです」
「そうか、ふんふん」
「教授、僕に用があるのでは?」
「いや、特に用事があるわけではないんだがね」
用事があるわけではないのか、特に話したこともない教授と用事もなく雑談をしたことのない僕は少し戸惑った。
ピロン、スマホの通知音が鳴った、僕じゃない、教授のポケットからだ。教授はスマホの画面をチラリと確認した。
「よし、もう行っていいぞ」
「へ?あ、はい」
教授はジャっと言うように、片手を上げて去っていった。僕も荷物を持ち、次の教室へ向かった。
「なんだったんだ…」
また顎に手を添えて考えた。未提出の課題がないかブツブツと言いながら確認しながら歩いた。わからん!考えても仕方ないな、これは!そう割り切ったところで、時計の文字盤がまたチラリと光った。
「やばい、遅刻する!」
僕は次の教室まで走り、そしてまた汗をかいた。
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