第6話 怪我した

 家を出る前に玄関で僕は腕、ポケット、リュックを叩き、忘れ物かないか確認する。

「スマホ、リュック、時計、財布、鍵よぉし!」


 そしてもう一度ポケットを叩きスマホがあること確認した。寝坊したり、頭を洗ったり慌ただしい朝だがなんとか出発できそうだ。スニーカーに足を突っ込み、指を靴ベラがわりにしてグイグイっと踵を靴の中におさめる。さあ出発だ、と思い、玄関に手を置いた瞬間、部屋の奥から声がしたと同時に母親の足音が近づいてきた。

「僕くん、食パン忘れてるよー」

 そうだ、僕はまだ朝ごはんを食べていない。これはよろしくない、しかし時間もないのである。

「かあちゃん、ありがとう!」

 僕は彼女から食パンを受け取った。片手で玄関のドアを開けながら、

「いってきます!」と言い、食パンを口にくわえた。冷えて少し硬かったがマーガリンの味がジンワリ感じられた。


 駐輪場にある自転車にいつものようにまたがるところまでは良かったが、ここでちょっとしたアクシデントが起こった。遅刻しそうなところで焦っていたせいか、通行人に意識がいかなかった。


 家の敷地から出ようと蹴り出したとたん、僕は通行人と接触の危機を迎えたのだった。自転車、対、人では確実に相手に怪我をさせてしまう、僕はとっさの判断でブレーキをかけキキキキキーという音の後、自転車にまたがったまま横に倒れた。


「いたた」

 肘が痛い、僕の奇跡の反射により相手には当たらなかった。「ちょっとあんたの目どこについてんのよ!」といったミニスカの女の子に怒られる展開が頭をよぎったが、ちらっと見た感じではミニスカではなかった。いやいや、そんなことよりまずは謝らなければ。のそっと手をつきながら起き上がる。


「す、すいません。怪我はありませ…」


 あたりを見回したが、誰もいなかった。



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