第3話 再誕

瞼に光があたり眩しい、頬にひんやりと感じる土の感触、立ち上がり土埃を払う。

周りを見ればそこは森の中、振り返ればそこには古い祠が一つ朽ちかけていた。

木々の枝葉の間から差し込む陽光が辺りを照らす、鼻から腹へ空気を思いっきり送り込む、土と草の香りを感じ大地に足をしっかりと踏みしめる。

今の姿を確認する、腰の大小に身に纏うのは最後に身に着けた具足が一揃い、なるほど思った通りの姿であった。


「黄泉返り、なるほど神仏の御業とは恐れ入った」


簡素な石作りの古い祠は戦神を祀っていたのだろう、ヒエイは両手を合わせ感謝の祈りを行った。

祀ろう人も無くない打ち捨てられたのだろう、しかしその祠には確かに戦神の気配を感じた、瞼を閉じて祈れば畏怖の炎が思い出される。


「あまり罰当たりな事も出来んな」


嘆息一つと共にこぼすと脳裏に戦神の声が響く。


(励めヒエイ、貴様が戦神の従としてワシを楽しませれば褒美をくれてやろう)

「なんと幻聴まで聞こえるとは、ますます恐れ入った」

(ワシを祀っておればそこで声位はかけてやれる、あまり露骨に手出しするといろいろ面倒なのが出てくるのでな)

「神仏の加護まで頂けるとは重畳、武運の心配無いのはこの上なくありがたし」

(おう、くれてやるくれてやる。勝負の趨勢を決めるのは結局は己が持つ地力なのだから、ない奴にいくら武運くれてやっても死ぬだけよ、その点貴様は問題なかろう)

「さて、人並よりは良いと自負しておりますがこの世でどこまで通じるかは何とも」

(それで良い、生まれから無双などつまらん。特に大神の胤の馬鹿共は見るのにも飽きたわ、言ったであろうヒエイ、ワシを楽しませろと)

「なるほど、それらに出会う事あれば気を付けましょう」

(まずはそれでよい、さて。ついでに迷える信徒に一つ道を示してやろう)

「拝聴いたします」

(祠より向き直りひたすらにまっすぐ進め、そこに戦の兆しが見える、そこで己が何をするか見て決めよ、だが何を一番にするか分かっておるよな)

「ご期待に沿えるよう努力いたしましょう」

(その言葉違えるでないぞ)


脳裏に響く声が遠ざかる、いつの間にか戦神の信徒となったようだ、御業を実感すれば信じない事など考えられん、それに褒美も約束された。

生前は主君に仕えたが、この世では戦神に仕える先が変わったと思えばなんと気楽な事か、そういえば食い扶持は貰えるのだろうか、そもそも神は飯を食うのだろうか。


飯を食えねば戦どころではない、具足に刀も損耗すれば銭が要る、さてそうとなれば当面は俗世の仕官先を探すのが先か、いつの世も争い絶えず無くなる事もあるまい。

戦神に示された通りに歩き始めたヒエイであった。

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