第2話 転生
「目覚めよ」
声が聞こえる、泥沼の中に漂うが如く微睡みに耽るヒエイの頭に響く。
目を開き今いる場所を見た、暗闇の中に一人だが不思議と恐れは無く己の手足がある、戦装束に腰の大小もそのまま。
はて、最後の大戦で見事果てたはずだがこれはいったい、ヒエイは頭を捻り顎に手をやった。
「よく目覚めた、存外小男よな貴様」
声の先、気が付けばそこに一人の男が立っていた。
「む、何奴」
「勇敢な戦士よ、貴様の働き見事であった」
男は白銀と紫金に彩られた南蛮の鎧を身に纏い何故か笑っていた。
身の丈3尺はある大男は赤銅色の肌に黒髪碧眼、これが話に聞く南蛮人かとしげしげと見た。
「貴様の祈願、三千世界遍く渡ったわ」
「すると貴方は神仏の一柱ですかな」
「似たようなモノだ、始原の混沌が戦狂い、俗界じゃあ戦神などと祀られとるわ」
「ありがたや、ありがたや、しかし八幡様に祈ったはず」
「言ったろう、三千世界にと、貴様の声は思うより大きかったようだな」
「なるほど、最後の祈願ゆえ張り切りすぎたようですな」
ガハハ、と戦神はまた笑い後光が現れ風景が一変した、それは業火の様に恐ろしく、陽光の如く神々しい、畏怖の炎と呼ぶような火の嵐が吹き荒れる。
「いやぁ、異界の戦狂いが総出で貴様が首幾つ取れるかと賭けて楽しんだぞ」
「はぁ、それはどうも、お喜び頂けたようで」
戦神の座興はどうにも血生臭い、だがそういうものかとヒエイは呆れた。
「そして見事貴様の首数をワシが当て、景品として貴様の魂を頂戴したのだ」
「はぁ、それはおめでとうございます」
戦神は嬉々として胸を張る、威厳の行方が怪しくなってきたのは気のせいか。
「うむ、そこでせっかく手に入れた貴様をどうしようかと思案してる次第なのだ」
「はぁ、どうされるのでしょうか」
「魂なんぞ死神やら冥府の連中が持ってってるから別に要らんのだが、かと言って奴らにタダでくれてやるのもつまらん、しかし魂を飾って見る趣味などワシには無い」
戦神はヒエイを指差した。
「そこでだ、貴様ちょっと黄泉返ってみる気は無いか」
「はぁ・・・、黄泉返りとは?」
「貴様の生きた世に戻すのはできんが、ワシが居るこちらの俗界に貴様を落とすのはそう難しくない、何しろ大神からして俗界に何人も女を腹ませておるからな」
「それはまた好色な方なのですな」
「あれは存在自体が珍宝よ、糞野郎だがな」
何やら思うところあるのか戦神は大神の事を話すと目が笑っていない。
「珍宝野郎の事などどうでもよい、どうだ貴様ちょっと俗界に落ちてみんか」
「賜りものにどうして否と言えましょうか、また刀を振るえるなら重畳であります」
「さすがワシが見込んだ戦士、ならば己の身体充実した姿を思い出せ、よし」
戦神はヒエイの胸に手を当てると張り飛ばした、戦神の姿が途端に米粒より小さく目前から消える、文字通り飛ぶように。
姿が見えなくとも声が響く。
「貴様の俗界での戦、楽しみに見させてもらうぞ」
ヒエイはその声を最後に意識を失った。
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