26.
「レーザー荷電式スタンガンの
「いったい何者だ? なんで僕らの後を
「他人に名を尋ねるなら、まず自分から名乗れよ……と、言いたいところだが、こんな気色の悪いトンネルん中で気取ってもしょうがないか……
「変な名前だな。それ、本名か?」
「疑うくらいなら、最初から
「何者だ?」
「警察庁・警備局・異世界探索課の警部だ……いや……だった、と言うべきか」
「警察庁の刑事?」
「ああ、そうだ……ただし、もう
「元の世界には戻らないのか?」
「戻らないんじゃなくて、戻れないんだ。お前らが
「そんな……」
「さあ、こっちは名乗ったぞ。今度はお前の番だ。名前ぐらい教えろよ」
ちょっと迷ったけれど、ここは正直に自分の名前を言うことにした。「
「それ、本名か?」
「疑うくらいなら、最初から
「そりゃ、そうだな……ごもっとも」
「何で、僕らの後を
「別に、
「……」
「納得できない、って顔だな」
「ここまでの道は、ほぼ
「視界三十メートルの豪雨の中で、危険を冒してまでお前らを追い越す意味は無いだろう」
「……」
「またもや、納得できない、って顔だな……じゃあ、こういう理由は、どうだ? 『進行方向に何があるかも分からない未知の道路で、お前らの
「僕らに〈
僕の問いに、レインコートの中年男……
「俺がこの凍結路面に気づけたのも……」梅塚が自分の足元を見て言った。「先行するお前らのジムニーの姿勢が乱れたからだ。お前らが先にスリップしてくれたお
「ずいぶんだな……じゃあ、あの〈
「あの化け物には、何度も遭遇して、何度も撃ち殺している……『親子に擬態する』ってトリックを知っていれば、それほど恐い相手でもない。あんな
(全く、いけしゃあしゃあと言ってくれる)僕は、顔色ひとつ変えずに憎まれ口を叩く梅塚を見て思った。
「いい加減、銃口を下げてくれないかな?」梅塚が、僕の手元を見て言った。
「それは、まだ無理だ……梅塚さん、あんた、そのレインコートの下にド
「ふんっ、若造が
梅塚が一歩、二歩と凍結路面を踏んで僕の方へ近づいてきた。
薄く張った氷の上を歩いているというのに、少しもフラついたり滑ったりしない。
「来るな……それ以上近づくな」僕は少しだけ語気を強くした。
その僕の言葉を無視して、レインコートの男はジムニーの後輪の横に
「なるほど、
240Zの男は、無数の異世界人の化石がビッシリと埋まった
ヤツの言葉に従うのは
フラつきながら、一歩一歩、慎重に氷の上を壁に向かって歩いた。
(くそっ、何で、ヤツはこんなスケートリンクみたいなツルツルの路面を普通に歩けるんだ?)
心の中で悪態を
「良い加減、それ、
怪しい男だが、これまで敵意や殺気を感じたことは無い。
信用しても良いのか? と一瞬だけ迷い、その自分自身の迷いを断ち切るように、僕は、あらためて拳銃を持つ手に力を入れた。
「用心深いのは悪いこっちゃ無いが……」彼は、横目で僕の顔を見て言い、それから視線を上げて壁の上の部分を見た。「しかし、何事も度を越えるとイヤミだぞ」
僕もつられて壁を見上げる。
半円筒形のトンネルだから壁と天井の間にハッキリした境目は無いけれど、とにかく壁から天井までビッシリと石化した人型生物の死骸で
僕ら人類より背が高く、手足が細長く、頭部も上下に長く、顔には
(……あれ?)
間近で見るまで、僕はそれらを異世界人の化石だと……つまり、長い年月を
皮膚も内臓も目玉も腐り落ち、骨だけになった死体の
けれど、実際には、目の前の壁を埋め尽くしているのは、骨だけになった化石ではなかった。
硬質化した皮膚が全身を覆っていた。
腹部には内臓を思わせる膨らみがあり、
(恐竜やマンモスの化石にも、皮膚や体毛ごと石化したものがあるって話は聞いたことがあるけど……)
「インテユニ人だ」相変わらず壁を見上げたまま、梅塚が言った。
「え?」僕は梅塚を見た。
「インテユニ人だ」もう一度、梅塚が言った。「通称『インテユニ世界』と呼ばれる異世界に住んでいた知的生命体だ」
「これだけ多くの化石があるって事は……大昔に、何らかの大規模な自然災害があったのか? それで絶滅した、とか?」
「化石じゃねぇよ」
「え?」
「確かに石みたくカチンコチンに固まってるけどな……こいつらは化石じゃねぇ。それどころか死んでもいねぇ」
「どういう意味だよ?」
「だから、こいつら、みんな、生きているって言ってんだよ」
まさか。この壁に埋め込まれた無数の異世界人の化石が……みんな、生きている……だって?
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