10.

 女が助手席側にまわってドアを開けた。

 ……しまった。ドアロックを忘れてた。

 彼女は、僕の青いジムニー・5ドアバージョンの後部座席を勝手に開けてスーツケースを放り込んだあと、助手席のシートに座った。

 勝手に何やってんだ、この女。

「発車しても良いよ」女が言った。

 だから、勝手に何言ってんだ、つってんだよ。

 さっさとそのケツを、僕の大事なジムニーの助手席から退けろ。

 ……いや、その前にがある。

「あのさぁ……急に、僕の自動車くるまが止まったのって……」

「ごめん、私がこの銃でやったんだ」

 女がジャケットのふところから銀色の拳銃みたいなものを出しながら言った。

 その銃(のようなもの)は、想像していたより小型だった。

 銃把グリップのようなものがあり、引き金のようなものがあり、銃身のようなものが付いていて、大雑把なシルエットは確かに拳銃に似ていたけど、細部をよく見ると、これが弾丸を発射する本物の銃だとは、とても思えなかった。

 刑事もののアクション映画なんかでよく目にする拳銃、というよりは、SF映画に出てくる光線銃のようだ。

(実際、光ってたし……)

 スタンガンとか、テイザーガンとか、そういったたぐいのものなのだろうか?

 いずれにしろ、この女は、僕の命の次に大事な青のジムニーのエンジンを何らかの方法で強制的に止めたんだ。

 許さん。

 絶対に、許さん。

「パパが、ね」女が言葉を続けた。「パパが、私にプレゼントしてくれたんだ。身の危険が迫ったら、これを使え、って」

 どっちかっていうと、危険だったのは僕の方だぞ。

「引き金を引くと、この先端のところから光線が出て、それに当たると、どんなコンピュータも止まっちゃうんだ」

「コンピュータを、止める?」

「そう。この安全装置が……」そう言って、彼女は、銃身の横に付いている小さなレバーのようなものを僕の方へ向けて見せた。「この安全装置が、光線の強さ調節も兼ねていて、順番に『安全』『威力・弱』『威力・中』『威力・強』で、『弱』だと三十分停止、『中』だと一時間停止、『強』だと、回路が破壊されて二度と起動しなくなるんだって」

「じゃあ……僕のジムニーは……」

「とりあえず『弱』で撃っといたから、三十分すれば、またエンジンが掛かるようになるよ。自動車って、エンジン、ナビ、エアコン……あらゆるものがコンピュータ制御でしょ? だから止まったの」

「何で、この自動車くるまを撃ったんだよ!」

「だって、久しぶりに会っただっていうのに、逃ようとするんだもん。私を乗せて何処どこかへ連れてって欲しかったのに」

「そんなの……自分の自動車くるまに誰を乗せようが乗せなかろうが、何処どこへ行こうが行くまいが、そんなの、僕の勝手だろ」

れないこと言わないで、連れてってよ」

「ふざけるな! さあ出て行ってくれ。この自動車クルマから出てってくれ」

 僕は思わず助手席の方へ身を乗り出し、ドアを開けながら女の肩を押そうとした。

「しょうがないなぁ……冷静になってよ」言いながら、彼女は、僕の方へ『光線銃』の先端を向けた。「三十分くらい気絶した後なら、少しは冷静になってくれるかな?」

 銃の先端が光った……と思った瞬間、全身に激痛が走った。

 僕は意識を失った。

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