●11●「悪魔は殺す」

「刹那君、その力は――」


 強大な力で、魔王候補である鬼の悪魔――ホシグマドウジを屠った刹那。その力に疑問を覚えた神楽が、問いかけようとする。

 しかし、それよりも早く、刹那に近づく影があった。

 黒の戦闘服に身を包んだ、黒髪に赤い瞳の少女。黒咲・奏である。

 彼女は両の拳に光――神の加護"鉄拳聖裁"を宿し、赤黒の異形の悪魔・刹那へと殴りかかっていく。

 

「――刹那ァァァァァァッ!!」


 叫び、打撃。悪魔をも砕く光の拳を、刹那は紙一重で異形の巨大銃器で受け止める。

 頑、という重く、冷たい金属音が響く。

 

「奏……」

「――テメェのその右手の痕は、魔王候補の証だ」


 ギリギリと、刹那が盾とする巨大銃器を押しのけながら、奏の鋭い目が彼を睨む。

 

「このまま生き残れば、テメェは魔王になる。だからその前に、死ね」

「それ、は……!」

「言ったはずだ。お前が人を殺す悪魔になるなら――殺すと!!」

「奏!」


 少し離れた所から、紫のドレスにベールを被った金髪の女性――クラリスが奏を静止する。

 

「刹那君を殺そうとするなんて、止めて……!」

「止めない。クラリス、お前が予知したんだ! この魔王戦争で選ばれた魔王が、世界を滅ぼすって! コイツがそうする可能性があるのなら……殺すしか、無いんだ!!」


 叫び、奏は光宿した両の拳を叩きつける。その乱打を、刹那は異形の銃器で受け止め続ける。

 

「――俺、は。世界を滅ぼすなんて、しない!」

「――ッ! 今はそう思ってても! 魔王になったら何を思うか分からない! 現に、今もその痕から訳の分からない力が溢れているんだろう!? それが魔王の力だ! 何かを滅ぼさずにはいられない破壊の力! 魔王候補が死ぬ度に増えていく呪われた力! お前が魔王となったその時、世界を滅ぼさないと、言い切れるか!?」

「それ、は――」


 奏の弾劾の言葉に、刹那は答えることが出来ない。

 右手の痕から溢れる力。奏が言う、魔王の力。今までなら手も足も出なかったであろう悪魔相手でも、打撃戦で殴り勝ててしまえるほどの力。それは、今も溢れ、全身を駆け巡り、疼いていた。壊せ、殺せ、と。人を、悪魔を、何もかもを滅ぼせ、と。

 今はまだ耐えられる。抑えていられる。だが、もしもこの力がこれ以上強くなったら。魔王戦争に生き残り、魔王となったその時、この力を自分は抑えきれるのか?

 分からない。分からなかった。だから、何も言うことが出来ない。

 ただ黙って、奏の拳を受け止めることしか出来なかった。

 

「――"呪術・黒鴉之群クロカラスノムレ・鳥遁の術"!」


 そこに神楽の声が響き、黒い鴉の群れが刹那と奏の二人を包み込む。

 

「これは――神楽ァッ!!」


 何が起きたのか理解した奏が、神楽へと非難の声を上げる。その彼女の前で、鴉の群れが刹那を包み込み――その中に刹那の姿が消えていく。

 鳥遁の術。鴉の群れに対象を溶け込ませ、移動させる術である。

 

『奏君、クラリス君、悪いけどここは逃亡させてもらうよ』


 鴉の群れが飛び立ち、ビルの屋上から飛び去って行く。飛び去る鴉の群れから、神楽の声が聞こえた。

 

『魔王の誕生を阻止したいのは僕も同じだ。だけどそれと同じくらい、僕は刹那君が大事なんでね』


 そう言いながら、黒い鴉の群れが深夜の空の向こうへと消えていく。

 

「――クソッ!!」


 それを眺める事しか出来ず――奏はその鬱憤をぶつけるように、地面を殴りつけるのだった。

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