●7●「新たなる《非》日常」

 それから数日間。刹那と奏の二人は、神楽とクラリスのサポートの元、深夜の悪魔狩りを続けた。

 悪魔達も魔王戦争の事をどこかで感じ取ったのか、普段よりも多くの悪魔が夏樹市に集ったが――クラリスの予知、神楽の対悪魔情報を元に戦う刹那と奏の前に、全ての悪魔が滅されていった。

 

 ●●●

 

「まだ魔王戦争の予知は変わらねーのか?」


 恒例となった阿久根神社・住宅の今における四人の夕飯の席。今夜のおかずである焼き鮭をつまみながら、奏がクラリスに尋ねる。クラリスは困った様子で眉根を寄せ、答える。

 

「残念ながら。明日の夜、五体の悪魔が集まり――魔王戦争が起きる。そのイメージは変わりません」

「悪魔はほとんど殺したんだけどな。まだ残ってんのか」

「その様です。すいません、参加者となる悪魔を予知、その居場所が分かればいいのですが――」

「予知は神様からのお告げみたいなもんだからねぇ。仕方ないよ」


 すまなさそうに言うクラリスに、神楽がお茶のお代わりに出しながら言う。

 

「ま、この街の悪魔はオレと刹那が大方片づけただろ。五匹残ってても雑魚しかいねーって。な、刹那」

「だといいが……」

「お前は心配性なんだよ。この数日で十匹は殺しただろ? 普通の街なら月に一度現れるかどうか、って悪魔を十匹だ。大抵の街なら一年は安心できる計算だぜ? 後五匹残ってるとしても、大したことねーって」

「油断は禁物だ」

「分かってるよ。だが変に意識してガチガチになるのも違うだろ? ――あ、醤油取ってくれ」

「はい」

 

 奏が伸ばした手に、刹那が醤油差しを手渡す。すっかり慣れた手つきだった。


「…………」

 

 刹那、神楽、そして奏とクラリス。四人での食事も、これで六度目だ。回数はともかく――刹那は、この光景に安心感を覚えていた。

 刹那と神楽だけの、以前の二人の食事に不満があったわけではない。しかし、奏とクラリスを加えたこの四人での食事は――刹那の心に、心地よいモノを残していた。

 ここにいる全員が、自分が半分悪魔だと知っている。知っていて、それでいてそれを受け入れてくれている。

 ここでなら、自分は何も隠す必要はない。学校のように、悪魔のことも、自分が半分悪魔であることも偽らず――さらけ出していい。

 互いに信頼し合い、嘘の無い間柄。仲間と呼べる関係性。それが、こんなにも快いモノだったなんて。

 

「――隙みっけ。からあげ頂き!」

「そうはいかない」


 刹那の皿のからあげに伸びてきた奏の箸を、刹那は同じく箸で迎撃する。

 

「このっこのっ」

「ふんっふんっ」


 ばしばし。がしがし。

 皿の上で箸と箸の攻防が繰り広げられる。そんな下らないやりとりも、なんだか楽しいと感じるのは――気のせいだろうか、と彼は思う。

 

「こーら、行儀の悪いことをしちゃいけません」

「からあげが欲しいなら私のを上げますから」


 二人のじゃれ合いは、大人二人の仲裁が入るまで続いたのだった。

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