●5●「ぎこちない二人」

「改めまして。ヨーロッパから参りました。予知能力者のクラリス・スターロードです」

「……黒咲・奏。以上だ」


 阿久根神社の裏手、神主でもある神楽達が住む住居。その居間に、四人の男女が座っていた。

 テーブルを挟んで片方には阿久根・真と叔父・神楽が。もう片方には黒咲・奏とクラリス・スターロードが座っている。

 

「阿久根・刹那です。――半分悪魔で、悪魔狩人デビルハンターをやっています」


 とりあえずそう言い、刹那はペコリと頭を下げた。チッと舌打ちの音が聞こえる。奏の方からだった。

 

「で、僕が阿久根・神楽。この阿久根神社の神主で、陰陽師で――悪魔狩人デビルハンターをしている」


 神楽はそう言って、ニコニコと笑みを浮かべながらよろしくと言う。それに「はい、よろしくお願いします」と答えたのはクラリスだけで、奏は黙ったまま、そっぽを向いていた。

 神楽はそれを困った様子で見ながら、それでも話しを続けた。

 

「えーと、刹那くん。彼女達がこの夏樹市に来たのには理由があってね? その辺り、説明お願いできますか?」

「ええ、分かりました」


 クラリスはこく、と整った所作で湯呑からお茶を飲むと、改めて刹那の方を向き直る。

 

「刹那君。貴方は"魔王戦争"と言うものを知っていますか?」

「強力な悪魔――魔王を選ぶ儀式、と言う程度には知っていますが」

「それで充分です。その魔王戦争が、近々この夏樹市で行われる――と私が予知・・しました」


 予知。荒唐無稽な話だ、と普通なら切って捨てるだろう。だが刹那は、それが真実である世界を知っている。悪魔狩人デビルハンターの世界では、予知能力者は重要な情報源として知られていた。

 

「時期はおよそ一週間後の満月の夜。その晩、五体の悪魔が選ばれ、魔王戦争は開始されます。戦争は一日で終わり、翌日には魔王となる悪魔が選ばれます。そして――その魔王は、世界を滅ぼします」


 世界を滅ぼす。あまりにもあいまいで、それでいて決定的なほどに分かりやすい言葉だった。

 

「世界を、滅ぼす」

「はい。選ばれた魔王は七日七晩をかけて世界を火の海で包み、破壊しつくします。それは各国の悪魔狩人デビルハンターが戦いを挑んでも止めることは出来ません」


 絶望的な未来を、クラリスは真剣な表情で語る。どうリアクションを取るのが正しいのか、と刹那が固まっていると、クラリスの言葉に続けるように奏が口を開いた。

 

「だから、魔王が選ばれる前に魔王戦争をブチ壊す。それがオレ達の任務だ。具体的には一週間後の魔王戦争が始まるまでに、夏樹市の悪魔を殺して殺して殺しまくる。――テメェを含めてな」

「奏!」


 刹那を睨む奏を、クラリスが嗜める。けっ、と拗ねる様に奏は明後日の方向を向いた。

 

「刹那君。今の所、貴方を処分するという指令は受けていませんし、貴方を殺すつもりも我々にはありません。貴方には、この夏樹市の悪魔狩人デビルハンターとして我々の悪魔狩りを手伝って欲しいのです。引き受けていただけますか?」

「分かりました」


 一も二も無く、刹那は頷く。その様子に面喰ったのか、クラリスは鳩が豆鉄砲を喰らったような表情となり、奏はへぇ、と牙を剥いて笑みを浮かべる。

 

「何だ、随分あっさりと了承するんだな。テメェを殺そうとしてる奴に協力しろ、って言われてるんだぞ?」


 明確な挑発を投げかける奏。しかし刹那は、それに真正面から返答する。

 

「魔王戦争によって魔王を生むことが世界を滅ぼすことに繋がるのなら。それは、絶対に阻止しなければならない。だから、協力する。それだけだ」


 それが、正しい事だから。と言う言葉は、刹那の胸の内だけで響いた。

 刹那の返答が気に入らなかったのか、不快気に眉根をしかめた奏は、

 

「随分とお正しい言葉だな。正義の味方のつもりか? 半分悪魔が。――まぁいい。役に立たねぇと思ったらオレがお前を殺す。それまで精々役に立てよ」


 と言った。そのまま押し黙り、居間を重い空気が支配する。

 その空気を打ち破るように、パン、と神楽が手を叩いた。

 

「――じゃあそういう訳だから。とりあえず夕飯にしようか! 腹が減っては戦が出来ぬ、って言うからね! ほら刹那君、お皿だして!」

「――で、では頂きましょうか!」


 神楽の言葉に、クラリスが承諾する。

 刹那は分かった、と席を立ち、箸やコップの準備のため台所へと向かう。

 奏はそっぽを向いたままだった。

 

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