第7話
★☆★
次の朝、私たちは村を出る。
いつまでも同じ場所に世話になるわけにはいかないし、情報収集をするにも限度があるでしょう。
女王にも近づきたいし、販売されていた地図に城下町がデカデカと載っていることもあって、さっそく二人で向かうことにした。
正確にいうと二人ではない。
「僕も一緒についていきますよ」
村の出口で、私たちはミラージュに呼び止められた。
彼は城下町でも力になってくれるようだ。
確かに、味方は多いほうがいいわ。たくさんの人と協力をしたほうが効率がいいというのも、分かる。
しかしながら、いたいけな少年を危険に巻き込むつもりもない。果たして本当に連れて行っていいのだろうか。
悩んだすえに私のほうが折れた。
かくして私たちは二人から三人となって、一緒に城下町を目指す。
移動は乗り物を使う
騎乗するのは、人間に友好的な魔物だ。
え、魔物……?
と、ミラージュに案内されて乗り場へ向かったときは、逃げ出したくなる衝動に駆られたものだ。
実際に乗るときも抵抗があって、いつ歯向かわれるか気が気でなかった。
ビクビクとしている私とは対照的に、魔物のほうは冷静だ。人間を乗せているという事実には気にもとめず、安定した速度で駆けていく。存外、こちらにも心を開いてくれる様子でもあった。おかげで私たちは道中をすばやく安全に進んで、目的地に到着する。
もっとも、数時間かそこらでたどり着いたわけではない。むしろ、村と距離があったがため、何日もかけなければならなかった。時には野宿をする羽目になったし、もう最悪よ。おかげでバリアを張る特訓ができたのはよかったものの、私としては「ようやくついたか」という気分だ。いちおう、安定感が増して頑丈になったと思う。はてさて、実戦では使えるかしら。
門の前で魔物から下りて、前方を見つめる。
一言でいうと広い街だ。真っすぐに伸びた道路に面して建っている民家や店には、石レンガが多く用いられている。たいへん発展していて、人通りが多い。身なりも清潔感があって、着ている服にはシワひとつない。高級な素材を使っていることは一目
最初の村と比較するのも失礼なくらい、完成度の高い街だわ。
「僕らのこと、バカにしませんでしたか?」
「え、してないわ。大丈夫。ええ、本当に」
「してましたよね。慌て過ぎですし」
うう……。
心の中で好き勝手に比較してはいたけれど、表には出さなかったはずよね。
あっさりミラージュに見抜かれてしまうほど、私って分かりやすいのかしら。
「仕方ねぇよ。どう見たって差がありすぎるもんな」
「まあ、そうですよね。僕も村のことを持ち上げる気はありませんし」
ミラージュの心が広くて助かったわ。
「じゃ、行くか。手分けして」
「そうしましょう」
「え、もう? 早くない? って、待って」
二人は勝手に話を進めて、なにくわぬ顔で離れていく。
おかげで私は一人になって、道路の真ん中で立ち尽くす。そばを豪華な馬車と一緒に、涼しげな風が吹き抜けていった。
はー……。
肩を大きく落とす。
よりにもよって、手分けして情報を集めなくったっていいじゃない。
みんな、私のコミュニケーション能力の低さを甘く見すぎというか、分かっていないわ。
一人で情報収集をしたところで、重要な情報なんて何一つ得られないと思うのだけどな……。
そうはいっても、いつまでも突っ立っているだけでは、なにも起こらない。時間の無駄だわ。
本当は人に話しかけるのも
まずは近くを通りがかった人間に声をかける。
丈の長いドレス姿の女性・タキシードを身に着けた執事・
期待感を胸に抱きながら、道路の端っこへ移動して、じっと相手の反応を待つ。
ところが、いつまでたっても協力者は現れない。こちらに一瞬顔を見せるだけで、すぐに前を向いてしまう。全員が自分の前を素通りして、忙しそうに目的地を目指している。
結局、城下町の人の群れの中でも、私は一人になってしまうのね。
呑まれるどころか、どんどん人が避けていくわ。
あはは……って、笑えないわよ。
影が薄いのは確かだけど、それ以上に街の住民が冷たすぎるわ。
一人くらい、振り向いてこちらによってきてくれる人がいてもよくない!?
「おお、先ほどからなにやら機嫌が悪そうだね。お嬢さん」
キター!
聞き慣れない男性の声を聞いて、顔を上げる。
頭の中心を閃光が通過していくのが分かった。
そうよ、このときを待っていたのよ。ようやく、私に協力してくれる者が現れたのね。
急にあたりがパッと明るくなったような感覚がした。
ただし、心の中の感慨と歓喜は表には出さない。クールに振る舞うのよ、私。
「ん? 誰ですか?」
ゆっくりと振り向くと、禍々しいな雰囲気のするテントの入り口から、ローブを着た男性が顔を出していた。
明らかに初対面よね。彼のような胡散臭そうな人間と会話をした覚えはないわ。
何者なのかしら。常人と異なるオーラを感じるし、精神も人間とはかけ離れているような気がする。
わざわざ声をかけてきたということは親切な人だと思いこんでいたけれど、様子がおかしい。雲行きが怪しくなってきた。
「どうだい? 一つ、占っていくかい? 大丈夫、今回はお試しだ。金は取らないよ」
「信じていいの?」
手招きをされて近寄ってはみたものの、実際に占いを利用する気はなれない。
なんせ、相手は占い師だ。魔法を使える身で言うのも難だけど、目には見えないものは信じてはいけないと、相場は決まっているのよ。占いなんて不確かなものにすがっては、人生を棒に振る羽目になるわ。
どうせ、嘘をついて、高いパワーストーンを売りつける気でしょう。お試しと誘惑しつつ、ネギを背負ってやってきたカモを逃さない気だ。
悪いけど、私は一文無しなの。大きなツボを目の前に差し出されたところで、購入なんてできないし、悪徳業者の役には立てないわよ。
私が黙って、目と眉の間を細めた真剣な顔で相手とにらめっこをしていると、不意に男性の口が動く。
「ほー、死の臭いがするね」
彼は感嘆の息を漏らす。
な、なに? もう一度、言ってくれない?
『死の臭い』ですって?
不穏にもほどがあるじゃない。
ほとんど無意識のうちに繰り出してしまった言葉でしょうけど、客を怖がらせるようなことはやめてよ。
思いがけない展開に心が波立つ。動揺が表に出たのか、占い師はまた笑い出す。
ケラケラと、楽しそうに。
ひょっとしたら彼は、見た目よりも若かったりするのかしら。
「私、死ぬかもしれないってこと?」
「さあね。あなたが女王に
はぁ……。
占い師は冗談でも口にしているのかしら。
今もニヤニヤと笑みを浮かべているだけで、本心は読み取れないわね。
「荒唐無稽にもほどがあるわ」
「現実逃避かい?」
違うわ。信じるに値しないと言いたいだけよ。
それにしても、『死』ね。
真っ先に頭に浮かんだのは、
ああ、もう、頭が痛くなってきた。なんだって、占い師の吐く信憑性のない情報に、踊らされなければならないのよ。
「アドバイスがほしいかい?」
「結構よ」
キッパリと断って、占い師から離れる。
結局、アドバイスは聞かなかった。
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