第4話 Early days

「南ってさ、優しいんだな。」


真莉はニヤニヤしながら僕を見てくる。


「何だよ、こんな事誰だってやるよ。」


「そんなことないよ。私、悪い意味で言ったんじゃなくてさ…」


「分かった分かった。じゃあ本屋に行こう。

そこで今日は解散な!」


僕は恥ずかしさからか真莉の言葉を遮って本屋へと急いだ…





…しかし結局お目当ての専門書は無く、また空いた時間にでも図書館に行くしかないな…


「じゃあまたな!」


真莉に一言かけると「今日はありがと。」

小さな声で返事が返ってきた。



地下鉄への階段を降りて長い通路を今度は一人で歩く…


頭の中にフラッシュ・バックされる景色…


「陽くん、ロングコートが欲しいな…」

「じゃあ、色々見て周ろうよ?」


あの頃がまた蘇る…仕方ない。この街にいる限りは絶対に頭から離れないだろう…

彼女との楽しい日々が…





彼女から別れを切り出されたのは留学先からの一通のエアメール。突然だった。


高校生で純粋ガキだった自分は現実が受け止められなくて思い切り泣いたし、見るもの全てに色が無くなって、なぜかあの頃の思い出が全てモノトーンとして記憶されている。


それだけ彼女を愛していた…と言えば格好が良いが自分が子供だったというのが本音である。こうやって今も女々しく引きずっているのが成長出来ていない証拠である。






地下鉄を降りて地上に上がると幹線道路沿いを少し歩いて自分の借りているワンルームのマンションに向かう。


父親の知り合いが経営しているので、家賃は格安だった。隣が工場らしくて昼間は時々音が聞こえるが、慣れれば気にならない。


部屋に荷物を置いてバイト先のコンビニへ向かう…店に入ると辻川さんが接客をしていた。


辻川さんに会釈をして、僕もスタッフルームに入り、着替えてドリンク補充の仕事を始めた。

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