第6話 電話「真実」
俺は喫茶店にいた。
竹内と約束した新宿の雑居ビルの3階にある、ゲーム機がテーブル代わりになっている昔ながらの喫茶店だった。
「高梨くん?」
と女性がやってきた。
一瞬、あれと思ったが、それは松井だった。
松井は昔から竹内に体格が似ていたが、竹内よりも少しふくよかだった。
パステルカラーの水色のサマーセーターに白の短めなスカートにスニーカーを履いていた。
まさか竹内が来られるとは思わなかったけど、松井が来るとも思わなかった。
「なんで?」
俺は席を立ちあがって質問した。
「ごめんね。」
松井は俺の向かいの席に腰かけた。
「ゆっくり説明するから。」
松井から聞いた話に驚いた。
竹内と仲の良かった松井は、高校生になって自ら命を断ったらしい。
自分が生きる意味を見つけた、と松井に告げた後に。
体も精神も元気そうだったのに、突然のことで、それを竹内の両親に聞いた松井も驚いたらしい。
竹内は仲の良かった松井に、「私がもしいなくなったら、こうして欲しい」、とお願いしたということだった。松井はそれを冗談半分だと思い、その時に止められなかった自分を随分責めたという話だった。
松井が言うには、俺には不思議だったが、竹内は俺のことが好きだったらしい。
でもそれを伝えられず、好きな気持ちが薄れたり、他の人を好きになりたくないと考えていたらしい。
この先30年経って、もし俺がまだ誰とも家庭を持っていなかった時には自分のことを思い出して欲しいと、同窓会や電話のセリフを託したという。
加えて、同級生たちには山登りで遭難したことにして欲しいとも言っていたそうだ。
自分は大学生活を送らないし、送れないけど、せめて架空の自分だけは楽しく成人まで過ごした人生にしたいと。
俺は困惑した。
筋は通っているようだったが、もしかすると松井が嘘をついているのかもしれないし、二人で俺をだまそうとしていたのかもしれないとも考えた。
確かに二人の声はよく似ていたが、電話口の声と、松井の声はやはり違うようにも感じた。
「そうなんだ。」
話を一通り聞き終えて、俺は納得したように答えた。
「じゃあ、俺はもう竹内と電話で話すこともないし、彼女に会うこともないんだな。」
「そう。ごめんね。だましたりして。」
「いや、いいんだ。この1カ月くらい、ワクワクしたり、ドキドキしたり、色鮮やかに毎日を送れたことには感謝してるんだ。」
「本当にそうかな。」
「真美ちゃんには悪いけど、私も楽しかった。ありがとう。」
「それにね。なんだか、高梨くんに自分が告白されている気分になって、ドキドキしちゃった。」
松井はうれしそうに付け加えた。
「なんだよ!人をもてあそんで。」
「ちょっと!もういいよね。」
近くの席から女性の声がした。
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