第5話 電話「約束」

「高梨くん?」

竹内の明るい声が聞こえた。


「おう。」


「良かった。もうつながらなくなるんじゃないかって思ってたから。」


俺は思い切って聞いてみることにした。


「あのさ、思い出したんだけど、卒業前に図書館で手紙もらったでしょ。なんかの紙切れに書いたやつ。それで何回かやり取りしたじゃん。竹内とのコミュニケーションって思えばあれだけだったかと思って。」


「え?そんなことなかったと思うけど。」


「覚えてない?こっちから告白しようと思ったのに、竹内から告白されるっていう。」


「ほんと?全然覚えていない。私、高梨君のこと好きだったけど、結局思いは伝えられなかったんだよね。」


俺の記憶が間違っていたのか、竹内が嘘を言っているのか。もしくは覚えていないのか。


「記憶にはないかもしれないけど、俺は思い出したんだ。」

「俺はあの時、すごく驚いたんだ。」


「なんで?」


「竹内からの手紙に、一緒に死にたい、なんて書いてあったから。」


「ほんと??そんなこと私が書くはずないんだけど。誰か他の人と間違えてるんじゃない?」


「まさか。」

「死にたい、というのは大げさだったかも。俺のことが好きになって、死ぬことが怖くなくなったって。なんかゴメン、記憶違いかもしれないから恥ずかしいんだけど。」


「うん。わかる。私は言った覚えないけど、そう感じる気持ちはわかる。それくらい高梨くんのこと好きだったよ。」


「そうなんだ。全然気付かなかった。」


「高校になって私結構モテだんだよ。でも、高梨くん以上に好きになる人は現れなかった。なら高梨くんにしっかり思いを伝えるべきだったんだろうけど、その勇気も出なかった。」


「俺こそゴメン。勇気出して告白しようと思ったのにできなくて。いまさらだけどね。俺も、同じかもしれない。竹内以上に好きになる人には出会ってない。たかだか中学生時代の感情をいまだに引っ張っているというのかというとそれもはっきりとわからないけど。結果としてはそうなっている気がする。」


「なんか私たち30年以上、遠回りしているのかもしれないね。しかも今はもう会えない状況にあるみたいだし。」


どこかの恋愛ドラマのような展開に、俺は楽しみつつもどうにも話が呑み込めないでいた。

何かがおかしい。いや、どちらかというと何もかも。


竹内は本当にこの世界にいないんだろうか。

何故電話は向こうから一方的につながるだけなんだろうか。



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