第3話 電話「記憶」
「なあ、こっちから電話かけてもいい?ちょっと試してみたいんだ。」
「いいけど。何か変わるかな。逆にする意味あると思う?」
「わからない。」
「番号は?」
「携帯電話しかないけど。090-××××-××××。」
「ありがとう。いったん切るね。」
「じゃあ、また。」
俺は電話を切って、竹内の番号を打ち込んだ。
コールは鳴らず、アナウンスだけが流れた。
「おかけになった電話番号はただいま使われていません、、、。」
そんなはずはなかった。
俺はもう一度同じ番号をゆっくりと押した。
また同じアナウンスが流れた。
俺が番号を聞き間違えていないのであれば、その番号は「使われていないもの」ということだ。
俺は少しあせった。
向こうからは2回かかっていたわけだから、「1時間経って、俺から電話がかからなければかけ直してくれ」、と約束しておくべきだった。
このまま音信不通になってしまったら、竹内と一生話しができなくなってしまう。この秘密を解明する手段もなくなってしまう。
そう思っていると、また電話が鳴った。
「高梨君、かけてみた?」
竹内だった。
「あー。もう連絡がつかなくなるかと思った。」
俺はほっとした。
「すぐかけたんだよ。で、『この番号は使われていません』ってアナウンスが流れたんだ。」
「そう、、、。。」
「同窓会行ったときに松井さんから聞いた話は嘘じゃなかったのね。私の世界にあなたは居ない、ってこと。」
「不思議なものは不思議と納得した上で、、、でも解明したいよね。」
「それに、わたし高梨君と話してるうちに会いたくなっちゃったし。」
「この前も結局会えずだったもん。」
「この秘密を解き明かすのには何時間か二人で喫茶店にこもるか、お酒飲みながら議論しないと駄目そうな気もするけど、、、(笑)。でもそれすらできない!!」
「なんか、『会えない』ってなると会いたくなっちゃうねー!!」
「うん。」
竹内のかわいらしく明るい声で、うれしいコメントばかり並べてもらった気がする。
俺も彼女と同じことを考えていた。
「一つの予想なんだけどさ。」
俺は話し始めた。
「俺の世界に竹内は居ない。そして竹内の世界の俺は居ない。でも自分たちの周りの人たちは同じように生活している。」
「俺たちの違いっていうのが、俺たちのうちどちらかがいるかいないかだけだとすると、2つの世界の両立はありえるんだろうか。」
「周りはすべて同じで進行しているってことはあり得るんだろうか。」
「それとも僕らの違いが世界に影響を与えて、何か違うものになってしまうんだろうか。」
俺はそう話しながら、何も変わらないことを確認していた。少なくとも自分が居ないということについては。
家族無し、当然子供無し。仕事だって自分の替わりなんていくらでもいた。
自分がいなくて世の中が変わるなんてことは、ほんの些細なことでもなさそうだった。
「私ねその話を聞いて、変わらないだろうなって思った。」
「だって私、家族いないし、結婚してないし、子供もいないし。自分しかできない仕事をしてるわけでもないし。」
「謙遜でなくてね、いまそう思った。」
結婚してないんだ。なんかうれしかった。
「いや俺はともかく、竹内は絶対居ると居ないのとで世界変わるはずだよ。俺だって竹内がいなくなったら変わっちゃう気がするし、、、。」
「30年以上音信不通の人にそう言われてもにわかに信じがたいけど。」
「ごめん。その通りではある。竹内のことは最近思い出したばかりだったね。いや、ときどき思い出すことは会ったけど。」
「本当?」
竹内がうれしそうに聞いて来た。
俺はそれを遮りながら話し始めた。
「ごめん。さっきの話ね。」
「とりあえずどっちかが欠けても世界が変わらないと仮定しよう。ということは僕らの周りは同じ世界が進行しているはず。」
「ちょっとテレビつけて見て。いま。NHKでいいや。」
「あ、うん。つけたよ。」
「ちょっと音大きくして。」
「うん、した。」
、、、日韓首脳会談は、北朝鮮問題の経済制裁に消極的な文大統領の提案にトランプ大統領が、、、 と竹内の電話越しに聞こえてきた。
「ほら。」
「あ、ほんとだ。一緒だ。」
少なくとも周りの世界は大きくは同じに進行しているようだった。
「でも携帯電話でつながるのは駄目なのかもしれない。さっきかけられなかったからね。」「携帯がいけるんだったら、同窓会の時にお互いに電話参加できちゃうんだけどね。お化け電話だと泣いちゃう人もでいるかもしれないけど(笑い)」
「竹内の携帯電話→固定電話はいけた。でも逆は駄目だった。固定電話→固定電話もいけるかもしれない。ということはその回線を利用してテレビ電話とか。」
「僕らの2つの世界が並行世界だとして、それがテレビ電話でつながったとしたら、ノーベル賞ものだよね。」
「うん。そうかもしれない!」
「ゴメン、全然関係ないこと言っていい?」
竹内が割ってきた。
「あー、もちろん。」
「一生懸命ね、真面目に現状を受け入れながら話してくれてるじゃん。いま。高梨くんが。」
「うん。恥ずかしながらそんな感じかも。」
「中学の時と変わらないな、って思った。」
俺の顔が赤くなった。電話越しの竹内には見えなかったけど。
「いや、変な意味じゃないの。うれしかったの。」
「だってそういう高梨くんが好きだったから。」
「人間年を取ると言えなかったことがさらっと言えたりするもんだね。」
竹内がほほ笑んだような気がした。
「で今、すごく会いたくなってる!!」
「だからお願い。なんとか解決して、会おうよ。」
「死んだとか死んでないとか、わけがわからないけど。高梨くんだったらなんとかできるんじゃない。昔からなんとかしてくれたじゃない。」
「なんとかしたっけ?無理かもしれないけど、なんとかして!お願い。」
彼女の声が少し大きくなった。
「今、俺もすごく会いたくなってる。電話じゃなく顔を見て話したいなと思ってる。でも、何かの専門家じゃないし、詳しい人でも違う次元の行き来なんて方法なんて解明されていないだろうし、どうしようもないかもしれない。」
「でも俺も竹内に会いたいと思ってるのは確かだし、竹内にうれしいこと言われたから、今は幸せな気分と、やるせない気分が同居してる感じだよ。」
俺は、竹内に夜9時以降なら好きな時に連絡していいよ、と言って電話を切った。
5コールなって出なかったら何か用があるって思ってね、と追加した。
時計を見ると、夜中の2時を回っていた。
なんだっけ?
眠る前に俺の心に何かが引っかかっていた。
俺と竹内は中学のころ、お互いが好きだったようだ。でも思い出してもその距離を縮めることはなく、実際のところなんの接点もなかったように思えた。
でも、何かデジャブのようにこのやり取りを思い出してしまった。
同じようなことが過去にあったかのような、、、。
しかしなんだったか。
俺はいつの間にか眠りについていた。
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